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 どうして、俺が美味しそうに食事をすると、ほんの少しだけ微笑んでくれるのか… 『――――ショウコ』  けれど尋ねようとすると甦るのは保さんの最期の言葉だ。  俺ではなく、最期まで薔子さんを想った保さんの、あの一途さと他者を寄せ付けなかった愛情が足踏みさせた。  男娼かもしれないと思われるような俺みたいな人間が、何を期待して問いかけることが出来ると言うのか… 「本当に美味しい。店のより美味しいです」 「……」 「あの…」 「男子厨房に立ち入らずと言う言葉を知っているか?」 「え?…はい」  突然言われた言葉にそう答えるしかない。 「うちの家がそうなんだ」  へぇ と返しそうになって飲み込んだ。  忍さんの作る料理は台所に立たせてもらえなかった人間の腕ではない。 「今も家では、立ち入らせてもらえないが    私は料理人になりたかった」  消え入るような言葉は、いつもは薄い忍さんの人間味を濃く俺に伝える。 「くだらない会社の窓際役員じゃなく」  微かな自嘲は、その道を歩まざるを得なかった人間の諦めだ。 「お世辞抜きで、美味いですよ」 「大学時代に、友人の家でこっそり勉強させてもらったんだ」 「え!?」  懐かしむ表情に笑みが乗る。 「失敗作は全部そいつに食わせた」 「………」  ぎゅうっと絞られる胸の苦しさに顔が熱くなった。  吸い込む息の苦しさに、心臓がどくどくと変な音を立てて耳の傍で騒いで、突き動かされるような言葉が喉を滑る。 「お… 俺…俺も!失敗作、食べたい!    で…」  「す」は恥ずかしさのあまり出てくることはなかった。  俺の声で現実に引き戻されたらしい忍さんが驚いた表情で俺を見つめていたからで…  真っ直ぐに見られて、とっさに顔を覆って俯いた。 

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