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第4話
「あれ?幸治は?」
正樹に尋ねた。
「…」
「どした?」
「休みみたいだよ。来てないから…」
奥歯に物が挟まったみたいな正樹の話し方に違和感を覚えながらも、
「ふーん」
あまり気にしてない様な喋り方をした。
かなり意識してるせいだと思う。
意識し過ぎて、冷たい感じに話した自分がいた気がした。
常に悟られないように意識し過ぎて、ギクシャクする。
その日、1日穴が空いた様な気分だった。
何となく正樹の様子も気になったが、君に対する僕の気持ちを悟られたくなくて、あえて気付かないフリをした。
風邪かな?
夏風邪?
明日また会える。
1日我慢しなきゃ。寂しかったけど、なんともないフリをしなきゃいけない。
そう。僕はそうしなきゃいけないんだ。
次の日君は来た。
何となくいつもと雰囲気が違う。
すぐ分かった。
下ばかり見てるのが、やたら不自然だった。
「おはよ」
僕は君の顔を覗き込んだ。
うっすら唇の横に傷がある。
なんだか叩かれたような…
「おはよ」
ぎこちなく笑うその笑顔は、明らかに作り笑顔だ。
まっすぐ僕を見ない。
目が全く合わない。
「どした?何かあった?」
「…え?どして?何もないけど…」
君はトイレと言って、授業が始まるギリギリまで帰って来なかった。
僕、避けられてる?
ふと、僕の気持ちがバレた?って不安がよぎった。
いや、気にしすぎだ。
もう少し様子見よう。
昼休み、屋上に君は来た。
でもいつもと違う事があった。
茜ちゃんの手作り弁当ではなく、僕と同じパンだった。
「あれ?茜ちゃん今日弁当サボり?」
笑いかける。
「そだね…」
全く笑顔がぎこちない。
さすがにおかしいと思った。
「何かあったんだよね?おかしいよ」
僕は直球で聞いた。
顔の傷も気になる。
「何もないから…」
君の目が明らかに泳いだ。
少し青ざめた君の顔は、動揺を隠し切れてなかった。
「友達だろ?言えよ。相談に乗るから!」
「大丈夫。気にしないで」
そう言って君はパンをひと口も食べずに走り去った。
こんなこと1度もなかったのに。
茜ちゃんへの気持ちも何もかも、何でも話してくれてたと思ってた。
でも今日は僕を避けてる。
いや、僕だけじゃない気がする。
誰とも喋ってないよ。君は。何があった?
そういや、正樹もおかしかった。他は特に気になる事なかったけど、正樹が君を見る目も何かぎこちなかった気がする。
そうだ。正樹に聞こう!それしかない!
心配で胸がはち切れそうだ。
絶対何かある。君の身に何か起きた気がして、嫌な胸騒ぎがした。
正樹を見つけて問いつめた。
正樹も目が泳いでいる。
でもこいつに聞くしかない。
「おまえ、何か知ってんだろ?」
「…」
しばらくあたふたしてたが、正樹が話し出した。
「…一昨日…俺…見たんだ。幸治が…サッカー部の3年に校舎の裏の茂みに連れて行かれて…」
「サッカー部の3年に?それで?!」
「3年の3人組…サッカー部の…」
「だからそれで?!」
「…押さえつけられて…シャツ破られてた…」
「…え?どういうこと?」
押さえつけられて、シャツを破られてた?殴られてたではなくて?
「…多分…おかまホられてたんだと思う…脱がされてたし…3人がかりで茂みで…押さえつけられて…」
正樹は半泣き状態になった。
「え?おかまホられてた?あいつが?」
頭が真っ白になった。
君がレイプされたってことか?!
君かレイプ…まさか…男の君がレイプされたってことか?
頭がクラクラしてきた。
心の動揺が半端ない。
だが、すごく気になったことがある。
「正樹、それって見てたってことだよな?」
正樹は目を思いっきりつむった!
「正樹!おまえ何故幸治を助けなかった!?」
おまえが助けていたら!見てたなら何故?
「…怖すぎて…俺…見てはいけないもの…見た気がして…思わず…逃げたんだ…」
正樹は後悔の念で泣き叫んだ。
人気のないところを選んで正解だった。
そして僕は思わず正樹に手を上げた。
行き場のない怒りが次から次へ込み上げる。
君は、そんな残酷な目に合っていたのか!
どうしていいのか答えなどすぐに見つかるはずもない。
ただ、気が付いたら僕自身泣いていた。
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