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第11話
どのくらい経ったかな?
幸治が大分落ち着いて来た。
知らない人が、チラチラ見ながら歩いて行くが、僕は気付かないフリをして、ずっと幸治の横で幸治が落ち着くのを待っていた。
「ごめん」
微かな声で幸治が呟いた。
「なんも幸治は悪くないよ。気にするな」
僕はできるだけ穏やかに答えた。
幸治は腕や手で涙を拭いながら鼻をズルズルいわせた。
「ほら」
ティッシュを差し出し幸治に微笑んだ。
幸治はティッシュを少し見つめて受け取ってくれた。
そして目元を拭って鼻をかんだ。
「行こ」
「どこへ?」
「とりあえず、ここ道の真ん中だから」
僕がそう言うと、
「はは、やっべーな」
幸治は少しはにかむ様に笑った。
久しぶりに見た笑顔だ。
決して心からの笑顔ではないとしても。
幸治はゆっくり立ち上がって僕を見た。
僕は幸治に微笑み前を指差した。
「とりあえず、川原にでも行くか」
幸治は頷き前に歩き出した。
喫茶店やファーストフード店、そんなとこには行きたくないはずだ。
僕の考えが正しければ、人気の少ない落ち着ける場所、そんなところでぼーっとしたいのではないか。
あまり人に見られず、密室でも狭い空間でもなく、全く人通りのない場所でもないところ。
広くていざとなったら僕を払いのけて逃げれる様な場所。
そう。僕には分かっていた。
幸治は決して僕にも安心してるわけではないことを。
君の心には大きな扉が閉ざされてしまっていることを僕は知っている。
誰も信用出来ない。
だって君はそれだけの事をされたのだから。
どちらかというと、幸治はふにゃふにゃしたタイプではない。
スポーツも出来て、決して体力のないタイプではない。
凛としてて男らしく、それとうらはらな美しく整った顔立ち。
美形だが男らしい。
繊細でいて強い。そんな魅力的なオーラを持った、本当に素晴らしい人だ。
だからノーマルな僕ですら君に心奪われた。
君が泣いたり叫んだり取り乱したりしたのは、今回の事件のせいでしかない。
いつも冷静で穏やかで優しい。
色んな面を誰でも持っていると思う。
弱いところも、ずるいところも。
多分そんなところを君も持っているかも知れない。
だが君は、そんなところを絶対人には見せない。
他人を不快にするような行動を決して取らない。
君にはそういうコントロール能力の高い人物だ。
どんなに辛くても悲しくても、自分の心にしまって相手を気遣う人だ。
だから今回君が心を隠そうとしても隠しきれなかった行為は君にキャパオーバーな出来事が起こってしまったことに他ならない。
僕はずっと君を見ていた。君と過ごした。君と話をした。
だからこそ、君が君でなくなったことを知っている。
心を破壊されるとはこういう事だ。
心の殺人。
そう。3年3人組。その中の1人川端。
そして今日また川端に破壊した心を踏みつけられた。
どこまで悪魔になれるんだ。
性犯罪の恐ろしさをまた1つ思い知った。
お前らを好きにさせてなるものか!
仇を打つ。そう。殺させた方がマシだったと、必ず後悔させてやる。
復讐は愚かだ。復讐は何も生まない。
バカか?綺麗事言ってんじゃねーよ。
悪魔を制裁して何が悪い。
僕から言わせれば、悪魔を野放しにしている社会の方がよっぽど悪いと思うけど。
よっぽど愚かだと思うけど。
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