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第17話
僕はしばらく頭が痛くて動けなかった。
が、何とかフラフラ立ち上がった。
正樹が
「大丈夫か?」
と心配そうに声をかけて来た。
「幸治のとこに行ってくる」
「多分トイレだと思う…」
「なぜ分かる?」
「川端先輩が今出た」
僕も教室の窓からL字に曲がった右手側の奥に見えるトイレの入口を見た。
確かに川端が逆方向に歩いて去って行ってる。
チャイムも鳴り終わっていた。先生が入って来た。
僕と正樹だけが、立っていた。
正樹は自分の席へと申し訳なさそうに帰って行った。
僕は先生に
「すみません。大宮くんが具合が悪いみたいでトイレから戻って来ないので、様子見て来ます!」
と言った。
「そうなのか?じゃあ、先生が見てくるよ」
ヤバい!それはヤバい。
「いえ、大丈夫です。僕見てきます。」
教室はザワザワしている。
クラスメイトは幸治が川端に連れて行かれたことを知っている。
理由が分からないまでも、具合が悪いのではないことは察しがついているはずだ。
いったい僕たちが何がしたいのか?川端に連れて行かれた理由が何なのか?興味本位で話しているのだろう。
もちろん、先生がいるからそう大きな声では言えないはずだ。
「ダメだ。お前は生徒だろ。こういう時は先生が様子を見て、必要なら保健室や保護者に連絡しなくてはならない。先生が行ってくる」
ヤバい!いったいトイレでは、どういう状況なのか?分からないだけに恐怖を感じる。
でも、先生が言ってることは正しい。
具合が悪かったら、適切な処置が必要だ。
だったらなんて先生に行ってトイレに君を迎えに行けば良かったんだ?
チャイムがなる前に迎えてたら良かったのに。
もう手遅れだ。
僕は力なく席に座り、手を握りしめて下を向いて目をつむった。
何も起きてないとは思えないが、先生にその真相を暴かれずに戻って来れますように…。
先生はトイレへと君を迎えに行った。
僕は祈った。
君に怒った出来事を、先生に悟られませんように!
しばらくして先生が足早に戻って来た。
「みんな、ひとまず自習してくれ!大宮を保健室に連れて行って来る!」
はっとしてみんな先生の顔を見た。
僕は席を立った。
「先生!僕も行かせて下さい!」
「運ぶの手伝ってくれるか!?」
「はい!」
クラスがざわめいた。
「先輩にボコられた?」
みたいな話しを無責任にあちこちで話している。
その程度の内容なら真相には近ずけない。
ともかく行かなきゃ!
僕は全力で走ってトイレに行った。
そこで僕が見たのは、トイレの個室で蓋をした便器の上で、ぐったりしてる君だった。
顔が真っ青だ!
貧血でも起こしたのか?!
すぐそばに行って
「幸治!大丈夫か?!」
返事が出来る状態ではない。
先生が
「先生がおぶるから、後ろから支えてくれるか?」
「いえ、先生僕がおぶります!」
「大丈夫か?落とすなよ!」
「大丈夫です!落としません!」
「じゃあ、頼む」
僕が幸治の足の間に背中を滑らせ、先生が幸治の脇を抱え、何とか僕の背中に乗ったところを
「せーのー!」
先生と2人で何とか僕の背中に乗せたまま、立ち上がることが出来た。
僕は幸治の足を両手でしっかりと抱え込み、少し前かがみで幸治をおんぶした。
君はすっかり脱落してしまって、気でも失っているようだ。
何があったのだろう?
考えるのもおぞましい。
ともかく保健室まで運ばないと。
僕と先生は早めに、かつ、安全に、君を保健室へと運んで行った。
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