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第21話
「幸治」
僕は帰り道ずっと黙っている君に声をかけた。
「…ん?」
無理した作り笑顔。
「…なんでもない」
僕は君からめを逸らした。
ゆっくり歩きながらかける言葉も浮かばないまま歩いた。
なんだか胸がものすごく熱くなってきた。
やっぱりどんなに自分の気持ちに嘘をつこうとしても苦しくてたまらない。
いや、今幸治に本当の気持ちを悟られたらこの関係は終わってしまう。
なのに。なのに僕はたまらなく先走る気持ちを抑えられなくなってしまった。
気がついたら僕は君にとんでもないことをしていた。
「…!何?!」
僕自身何?って思った。
僕は今君の後ろから思いっきり君を抱きしめていた。
君は放心状態で微動だにしなかった。
君は次の言葉を発しない。
僕も何も言わずに君が壊れそうなくらいキツく抱きしめた。
もうどうにもならない。
好きだ!好きだ!
女の子を抱きしめるそれとは全く違った。
がっしりしてて硬い。
だけど、ほんのり柔らかくて温かい。
傷付いた君を抱きしめるなんてどうかしてる。
けど、抱きしめずにはいられない。
ものすごく長く感じたけど、だんだん君が小刻みに震えているのが伝わって来た。
「光星」
とうとう君が声を発した。
「そんな慰め方してくれなくていいから…」
僕は言葉を失った。
君は僕が慰めるために抱きしめたと感じたんだ。
違う。
僕は君に触れたかった。
抱きしめたかった。
どうしようもないくらい好きなんだ。
君が僕の腕をゆっくりと解いていく。
穏やかに優しく。
だが、もはや僕は理性が効かなくなってしまった。
解かれた手で君を僕の方に向けてまた抱きしめた。
君はビクンとして、呼吸が荒くなった。
危険を感じたのだろうか?
僕を押しのけようとし出した君の力は結構強かった。
僕は仰け反って後ろに倒れた。
「痛!」
「あ、ごめん!」
君は心配そうに僕を起こそうとした。
そして僕はその差し出された手を思いっきり引っ張った。
そして君も倒れた。
すかさず君の上に体を持ち上げ君は地面に横たわってしまった。
その時の君の目は驚きのあまり目がぐるぐるして対処不能状態になっている。
君は仰向けに、僕は上半身君の上にそして少しずつ腰を上げ君の体をまたぎ君の顔を覗き込んだ状態で君を見つめた。
言葉は何ひとつかけられない。
君が僕の目を驚いて見つめている姿を僕も見つめながらゆっくりと君の顔に顔を近ずけていっった。
君は多分僕が何をしたいのか気がついただろう。
でも君は全く抵抗しなくなった。
そして僕は君の唇に僕の唇を重ね合わせた。
あったかくて優しい唇。柔らかくて気持ちのいい唇。
その唇からすっと吐息が漏れた。
次の瞬間僕はさらにスイッチが入った。
道の真ん中で君の頭と髪を掴みながら舐める様に唇を攻めた。何度も何度もキスをした。
そしてさらに唇を君の首に這わせた。
1つ目のボタン、2つ目のボタンを外した時、冷たいものが頬に当たった。
君の涙だ。
「あっ!」
僕は始めて声を出した。
体を起こし君を見た。
幸治は横を見ながら涙を流していた。
唇を噛みしめていた。
「ごめん!ごめん!」
僕は何度も謝った。
「ごめん!本当にごめん!」
だけど返って来る言葉はなかった。
僕を軽く払って、君は立ち上がり荷物を持ってゆっくりと歩き出した。
終わった。
もう君は許してくれないだろう。
僕は自分自身の欲望に勝てなかった。
でも君は僕をそんな目では見てなかったのだから、川端と同じことをされた。そう思ったよね。
僕はサイテーだ。
そして君の心は離れた。
僕の欲望がとてつもなく大きすぎたために…。
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