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第4話(R18)

 『イくぅ』と喘いでいたのは高めの声ではあったが、とても女の声ではない。それから、女のものではない『ハァ、ハァ……』という荒い呼吸音が聞こえて、外山は『外山君?』という中田の声で少しだけ我に返る。 「あっ……」  外山は中田と繋がった電話を早く切りたかったが、ボタンが上手く押せなくて、スピーカーになる。 「誰? 外山君って」 「ああ、同じ会社の子だよ」 「え、仕事って終わってたんじゃないの?」  イくと喘いでいた青年はもう賢者モードから抜け出しているらしく、中田に聞いている。すると、中田は「俺もそう思ってたんだけどね」と言った。 「ふーん。まだセーコーさん、イッてないけど、仕事だからまたチャットしようね」 「じゃあね」  青年は未練などなく、実に、軽い調子で中田に通信に終わりを告げると、中田も同じように通信を終える。  どうやら、中田は青年といかがわしいチャットしていた最中のようだった。 「すみません、お邪魔だったみたいで」  外山は中田へ詫びると、着信があったので折り返したことと、折り返しをし直すことも伝える。  だが、中田はいつのことか、いまいち何のことか、しっくり来ていないようだった。 「着信? 俺が外山君に?」 「えぇ、今日の14時23分と15時47分に。すみません。何か急がれていたのかと思って」  外山は中田から着信が入っていた時間まで言うと、中田はやっとどうして、外山へ電話をかけたのかを思い出した。 「急ぐも何も。外山君から珍しく着信があったから折り返しただけなんだけどー」 「えっ!」  意外な中田の回答に、外山も間が抜けたように驚く。  ただでさえ、あまり良く思っていない同僚の中田にかけるなんて……と思い当たると、外山の中である可能性に行き着いた。 「ちなみに、私が中田さんに電話した時間って……」  外山は若干頭が痛くなりかけながら、中田へ聞く。おそらく、可能性としては…… 「確か、昨日の1時か2時くらいだったかな? まぁ、熟睡してたし、今日はなんやかんやあって、気がついたのは昼過ぎだったんだけど」  あはっと笑う中田の言う昨日の1時か2時。  正確には昨日の25時か26時のことで、今日の1時か2時。それは中谷の連絡先を消した時間と同じくらいの時間だった。

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