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第6話
外山と同じ会社で働いている中田は外山がどういう仕事をするかを知らない訳ではない。職業柄なのか察しが非常に良く、また少しせっかちなところがある性格も勿論、知っているし、顧客の少し無理な要望にも骨を折って、心を尽くして互いに利益が出る仕事を着実にする。
一見、外山はスマートに見えて、泥臭くて、人間味のある仕事をすることを知っていた。
「じゃあさ、俺とつき合ってくれない?」
「えっ!」
「だから、俺とつき合って欲しいんだけどー!」
中田はもう1度、受話器の向こうで大きめの声で言うが、外山は何も中田の言っていることが電話だったから聞こえなかった訳ではない。
だが、即座に理解することはできなかった。
「どうして、私に……」
外山の立ち振る舞いは仕事でも、日常のちょっとしたひと時でもいつもスマートに見えるし、外山もそう見えるように努力してます!みたいなものはなるべく見せずに、立ち振る舞っていた。
努力するのは当たり前だし、それをこれ見よがしに見せるのは外山は良しとはしなかったからだ。
ただ、今の外山は上手く立ち振る舞えず、狼狽えるしかなかった。
しかも……
「外山君って俺のこと、あんまり好きじゃないでしょう」
「あ……」
中田の『外山君って俺のこと、あんまり好きじゃないでしょう』という言葉が先日、恋人だった中谷の、『テルって俺のこと、好きじゃないでしょう』という言葉に重なる。
奇跡的とも言えるタイミングで重なるが、その間にも中田の話は続く。
「でも、外山君、可愛いじゃん! 何でも一生懸命で。それが嫌ならこうして、電話で話してくれるだけでも良いからさ」
中田は『折角、外山君から電話もかかってきたんだしね』と締め括ると、また笑う。
それを引き合いに出されると、外山としても弱い。いや、立場は弱いが、中田のペースに乗せられぱなしというのも、外山としては我慢ならなかった。
「つき合うのは難しそうですけど、良いですよ」
「ん?」
「電話で話しましょう。何なら、良いところを邪魔してしまったみたいだからヌくの、お手伝いしましょうか?」
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