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第7話

『電話で話しましょう。何なら、良いところを邪魔してしまったみたいからヌくの、お手伝いしましょうか?』  中谷に振られて、全く自棄っぱちになっていない……という訳ではないが、外山はそんなことを言いながら嘲る。  これで、中田が乗ってこなければ、それはそれで外山的にはシメたものだし、乗ってくれば乗ってきたで、今後、何か中田が言ってきた時の断る口実にすれば良い。 中田は少し考えたように黙ると、「OK」と外山の案に乗ってきた。 「じゃあ、まずは電話をスピーカーにして」 「ええ、勿論……」  当然のことながら、受話器を持ったまま、服を脱ぐことは難しいし、服を脱ぎながら会話することはできない。  外山がスマートフォンをスピーカー設定にすると、中田の声が部屋へと響く。 「良いよ。さっきよりも外山君が近くにいる感じ」  中田が言っていることはそのまま、外山にも当てはまる。  40半ばという年齢を思い切り無視した、両足の間に隙間のできたほっそりとした長めの足に、少し曲がった首筋から肩と肩から腰のライン。  少し緩めに整髪剤で、髪型を整っていて、春夏は微かにライザンダーの香りがする。そして、やや笑うと、少したらしに見えるが、十分にワイルドでやや危険な男になる。 「で、私も服を脱げば?」  中田の『外山が近くいる感じ』発言を軽く無視して、外山は服のボタンに手をかけようとする。  すると、中田は盛大に溜息をついた。  それから…… 「ブぅー、君は察しは良いのに、野暮というか……。あのね、外山君。良い? これは電話なんだよ?」  馬鹿にしたように中田は外山の行動を窘めると、正解を告げる。 「想像を掻き立てるのも悪くはないけど、今はどんな色のシャツを着て、とかどの部屋で脱いでいるか、とかある程度、情報がないと」  中田は『はい、やり直しです』と茶化して言うと、外山は溜息をつきそうにながらも、答える。 「シャツはグレーのヤツを着ていますね。たまに仕事で着てる」 「ああ、グレーのも良いけど、あの薄いブルーのヤツの方が俺は好きだな。外山君に似合ってる」 「……それで、ズボンはベージュで、場所はリビングで、ソファにかけています。眼鏡をはずしても?」 「ああ、仕事してたんだよね。お疲れ様。どうぞどうぞ」

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