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第3話
「昨日はイかせなかったから、今日はたくさんイかせてやるよ」
「や、ん…… あぅっ」
ニヤリと上がった口角を見た愛斗が制止を求める前に、無機質な音がカチリと響き、玩具が細かく振動を始めた。
「あ、ふ…… くうっ! 」
「中が締まった。マナ、上手だよ」
褒められているのは分かったが、もはや思考が働かない。
「口、開けて」
顎を上向きに固定され、言われるがまま唇を開くと、人差し指と中指とが口腔内へと挿し入れられた。
「声、我慢しちゃ駄目って言ったろ」
「ふぁ…… あぁっ! 」
激しさを増した律動に、開きっぱなしの口の端からは涎が溢れて顎へと伝い、玩具を押しつけられたペニスがヒクリヒクリと前後に揺れる。
「もうイきそうだな…… 可愛いよ」
「やっ、ああっ」
乳首をチュッと吸いあげた彼が、そう囁いてくるけれど、こんな姿のどこを可愛いと思うのかまるで分からなかった。
――に…… さん、にいさ…… 。
もう呼ばせては貰えない名前を心の中で繰り返し、愛斗は迎えた絶頂の中、細い身体を戦慄かせる。
「アッ、ア…… アウッ! 」
その瞬間、「愛してる」と囁く声が耳へと届いた気がしたが、あまりに都合が良すぎるそれは、幻聴と思うことにして…… 疲弊しきった心と体をプツリと闇の中へと落とした。
***
愛斗の出自は普通のものとは違っていた。だが、それは本人のせいではないし、誰に責められるものでもない。
幼い頃はごく一般の家庭だと思い込んでいた。古いアパート暮らしではあったが、優しい母は自分のことを可愛がってくれていたし、時折姿を見せる父親もよく頭を撫でてくれた。
それが一変したのはたぶん五歳くらいの頃だと思う。
まず、毎日通っていた幼稚園に行かなくなった。そして、その頃から母の様子があからさまに変化した。
『こんなことになるなら、アンタなんか産むんじゃなかった』
そんな暴言を吐かれることが日課となってしまったあたりで、母は頻繁に愛斗を置いて家を空けるようになった。
帰らない日もあったけれど、幼い愛斗にできることは、母が帰るのをただ待つだけ。
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