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第4話

 食事に関しては母がパンなどを置いていってくれたから、死ぬほどでは無かったけれど、一人で風呂に入ることもできず、愛斗は少しずつ汚れていった。 『ママはもう帰ってこないから』  どれくらい時が過ぎていたのかは把握できていなかったが、そう言われた時、愛斗は必死に母の腕へと縋りついた。  それまでは、会えない日も多かったけれど二日に一度は帰ってきていた。たぶん、パンが置いてあったから、寝ている間に帰っていたのだと思う。 『触らないで! 』  ヒステリックな叫び声と、振り払われた小さな手。  愛斗は床へと倒れ込んだが、泣けば叩かれた記憶があるから、嗚咽を必死にかみ殺した。起きあがろうにも力が入らず、そのまま母が出て行くドアをぼんやり瞳に映していた。  後から聞いた話では、子供の泣き声を気に掛けていた隣人が、数日声が聞こえない事を不審に思い、警察へと通報して愛斗は保護されたらしい。  見つかった時の愛斗といえば、栄養状態が非常に悪く、通常よりもかなり痩せていて、言葉をまるで発しなかったと聞いている。  数日間の入院を経て、一時預かりの施設へと連れていかれたけれど、その先愛斗を待っていたのは、たらい回しの生活だった。  どうやら、母には多くの親戚がいたが、その全てと縁を切っていたらしく、だからなのか行く先々で、愛斗は冷遇を受けることとなり―― 。 『かわいげがない』 『ニコリともしない』 『話しかけても返事をしない』 『手伝いすらまともにできない』  どこへ行ってもそう(なじ)られた。  もう捨てられるのは嫌だったから、愛斗なりに努力はしたが、笑ってみても『気味が悪い』と言われたし、話そうとすれば『言っていることが分からないから話しかけるな』と怒られた。  どうすればいいか分からないから、益々言葉は出なくなり、学校でも同級生に馴染めず徐々に孤立していった。  そんな中、四年生になった愛斗の前へと突然現れたのが、父方の兄だと名乗る倉科明斗(くらしなあきと)という人物で。

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