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第5話
その少し前、折檻の挙げ句家を出され、公園で時間を潰している時、彼は兄とは名乗らずに愛斗の傍へとやってきた。
『もう遅いけど、家に帰らなくていいの? 』
ブランコに座り俯いていたら突然声を掛けられて、愛斗がのろのろ顔を上げると、テレビの中から抜け出たような綺麗な男が立っていたから、驚きのあまり目を見張ったのは今でもよく覚えている。
どう答えたら正解なのか分からないから黙っていると、彼は隣のブランコに座り、それをゆっくりと揺らしはじめた。
『帰りたくないんだね』
心の中を見透かしたように告げられて、愛斗は思わず立ち上がる。
『待って、少し話をしたい。君がよく、ここにいるのを見掛けて、それですごく気になったから、声を掛けてみたんだ。怪しくない証明にはならないけど、本当だよ』
真剣な顔で告げてくる彼を悪い人だとは思えなかった。だから愛斗はコクリ頷き、再びブランコへ座ったのだ。
それから、毎日のように待ち合わせ、少しずつだけど会話をした。
不思議と話しやすかったのは、なかなか喉からでない言葉を彼が待ってくれたからだ。だから、そんな彼が自分を訪ねて自宅まで来てしまったときは、正直とても驚いた。
弁護士を伴った彼に養父母も驚いていたが、愛斗は同席を許されず、庭に置かれた自分専用のコンテナの中で、状況がうまく飲み込めないまま時計ばかりを気にしていた。
そして、夜もだいぶ更けた頃、ドアが唐突に開け放たれ、部屋へと入って来た彼が、手を差し伸べて『おいで』と優しく言ったのだ。
――だから、僕は…… 。
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