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第8話

 ***  やっぱり悪い夢を見たのだと思い込みたくてたまらなかったが、覚醒とともに体中が酷い痛みを訴えてきて、否が応にも現実だったと思い知らされることとなる。 「…… あ」  目覚めてしまった愛斗の瞳に最初に映り込んだのは、散々自分を嬲って犯した綺麗な兄の寝顔だった。小さく声を上げてしまうが、彼が起きる気配はない。  ―― 綺麗。  見惚れるほどに美しく、だけど男らしい容姿の彼と、貧相で、凡庸としか言えないであろう自分みたいな人間が、兄弟であると言ったところで誰も信じやしないだろう。 『父親が、一緒なんだ』  引き取られたその夜に、明斗は愛斗にそう告げた。  信じられないと愛斗が言うと、困ったような顔をしたあと、DNA鑑定をしたから間違いないと説明した。  ――あの日…… からだ。   十歳の時、親戚の家から明斗のマンションへとやってきて以来、愛斗は明斗以外の人間と殆ど関わりを持っていない。  別に、禁じられたというわけではなく、学校へ行くようにと言われなかったからなのだが、愛斗からそれを求めることは悪いことだと思っていた。  母親に捨てられた後はずっと(うと)まれてばかりいたから、救ってくれた明斗にまで疎まれるのが心の底から怖かったのだ。  彼との生活を不自由だと感じたことは一度もなかった。  勉強は、明斗が毎日時間を作って丁寧に指導してくれたし、テレビや本を見ることだって規制されはしなかった。  外出についても特に制限はなかったから、愛斗は自由に出掛けていた。それについても、学生が街にいない昼間は極力出るなと言われたくらいで、自由が無いと思ったことは正直言って一度もない。

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