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第9話

 明斗から聞いた話によると、二人の父親は愛斗が五歳の時に病で亡くなった。  有名企業の系列会社で社長をしていた父親は、愛斗の母親と愛人関係であったらしい。  亡くなったことを知った母親は、倉科(くらしな)家へと何度か(おもむ)き、愛斗にも遺産を受け取る権利があると訴えたが、正妻はそれを認めることなく、言いたいことがあるなら裁判を起こせばいいと告げたらしい。  そして、愛斗の母にはそうするだけも知恵も財産もありはしなかった。 『マナのお母さんはたぶん、急にお父さんがいなくなって、どうしていいか分からなくなっただけで、マナのことが嫌いになったわけじゃないと思うよ』  眠れぬ夜、トントンと背を叩きながら、囁かれた明斗の言葉に、愛斗の心はどれだけ救われたことだろう。 『子供が金の心配なんかしなくていい。俺は、弟がいるって分かって本当に嬉しかったから、だから会いに行ったんだ。一緒に暮らせるのが嬉しいよ』  どこまでも甘く優しい明斗。  数年後、尊敬が恋慕に変わる瞬間がくるなんてことは、当時思いもしなかったけれど、そうなった時も素直に自分の心を受け入れることができた。  もちろん、それがいけないことだというのは愛斗にだって分かっていたから、死ぬまで隠し続ける決意を内心密かに固めていた。 「…… いさん」  眠っている明斗の顔を見つめていた愛斗の口から、数日前より禁じられている言葉がポロリと零れ落ちる。  これまでずっと〝兄さん〟と呼んでいたのに、ここ数日、明斗が豹変してからは、名前を呼ぶよう強要された。 「眠れないのか? 」 「…… うん、ちょっと、目が覚めて」  不意に、目の前にいる明斗がパチリと瞼を開いてこちらを見たから、愛斗はビクリと体を震わせ、だけど懸命に言葉を紡ぐ。  これまで、散々に犯されているせいで気絶するように眠っていたから、こんなふうにベッドの中で目を覚ますのは初めてだった。 「なあマナ、怒らないから、どうしてあんなこと言い出したのか教えて」  少し掠れた低い声。  体を強く抱き寄せられて頬へとキスを落とされる。  数日前までこんな触れ合いは無かったからドキドキするが、明斗はそんな愛斗の気持ちなどお構いなしに、何度もキスを繰り返した。

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