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第3話

 走っていた。  ひたすら、走っていた。  わあわあわあと外野の声がうるさくて、なぜうるさいかと言えばそれはすべて応援の声で。  誰のための応援? 勝つ奴のための応援。  俺は走って走って前にいる奴をどんどん追い越して、苦しくても苦しくてもあの先頭を走る背中を追い越したくて。  精一杯力を振り絞って横に並ぶ。あともう少し。もう少しなんだ。  すい、とこちらを避けるようにして速度を上げるだれか。  こちらの全力を上回る速さで、ゴールテープを切る。  歓声は、俺を通り越して勝者に降り注いだ。  俺を、置き去りにして。 「おめでとう、おめでとう!」  ああ、何もかもが俺を通り過ぎ、俺を無意味で無価値なものだと囁いていく。  俺は全身に込めた力が抜けて、ひりひりと痛む喉に酸素を送り込むためにぱかりと口を開け。 「……かはっ!」  目を覚ました。  俺は茶色の板張り天井を視界に入れながら、何が夢で、何が夢でないのかこんがらがった思考を一つ一つひも解いた。  視線を横にやる。  隣の布団で、端正な顔の少年が目を閉じ静かに眠っていた。  純粋に綺麗だなと思った。  なんとなく、こいつはいるだけで価値がある人間になれる、そんな気がしたのだ。  自分と違って。

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