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第9話

 キッチンの隣にある折れ戸、その向こうの浴室。  俺は湯をはった風呂に手を入れて温度を確かめていた。うん、具合はよさそうだ。後ろでは風呂を初めて見たヤクモが狭い部屋の中を歩き回っては内装に目を丸くしていた。 「足元気をつけろよ。滑りやすいから」 「ふうん……うん」  ちなみにまだ二人とも着衣状態である。  ヤクモをシャワーの近くに手招いてハンドルに注目させ……深く息を吸って。 「服全部脱いだらここひねって湯を出して体流してスポンジで石鹸泡立てて体擦ってまた体流す。終り。じゃあまた後で!」  そう言って風呂場から出ていけば解決だと思ったのだが、甘かった。 「わかったこうだね」  ヤクモが覚えたての気安さでシャワーのハンドルに手をかけている。 「まて今ひねるなって、わああ!」  ぶしゃあと勢いよく吹き出す湯で全身びしょぬれになった。顔にもかかって目を閉じ慌てて拭い、目を開ければ何故がヤクモがシャツを脱ごうと格闘していた。 「あああなにしてんだお前!」 「服脱ぐの忘れてた」 「その順序は間違えないでほしかった」  ため息をついていまだ流れ続けていたシャワーをひねり閉じつつ。 「あとヤクモ。俺の前で脱がないでくれ。体が見えるだろ」 「見えたらだめなの?」 「普通他人の裸はあんまり見ないんだよ。恥ずかしいんだ」 「わかった」 「だからってそのまま外に出るな! 廊下まで水浸しになる!」  びしょ濡れの服をまとったまま、いまにも出ていこうとしていたヤクモは困ったような顔をして首をかしげた。 「じゃあどうしたらいいの?」 「あー……わかったよ、降参だ。今日はそういうのなかったことにして、ここで脱いでくれ」 「うん。じゃあアサヒも脱ぐんでしょ?」 「あああああ……」  男二人狭苦しい風呂場で裸、回避できなかった……。

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