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第11話

 湯気で蒸し暑かった風呂場から出て、洗面所で体を拭く。火照った体にはちょうど良かった。 「一人で拭けるか? ヤクモ」 「ん……」  生返事のヤクモの顔がほんのり赤い。少しのぼせたようだ。なんとかタオルを動かして拭いているが、まだ髪からぽたぽたとしずくがしたたり落ちていた。短めに切られていて乾かしやすい俺の髪と違い、ヤクモの髪は量が多い。苦戦しているようだった。 「ほら、頭は俺がやってやるよ」  タオルを取ってヤクモの頭にかぶせる。髪の流れに沿ってできるだけ水気を吸うように動かせば、動かした分だけヤクモの頭も動く。 「お前、ちょっと具合悪いんじゃないか? 力抜けてる」  ヤクモの口が開いて、少し息を吸い込んだのが分かる。少しでも外の冷めた空気を体内に入れたい、そんな感じがした。 「あつい」 「ごめん、すこし長居しすぎたな。今日はもう部屋で休もう」  タオルを外してヤクモの顔を覗き込むと、やっぱり頬が上気してのぼせているようだった。床に落ちていたヤクモの視線が顔の向きはそのままに視線だけ動いて俺に向かう。  そのとろんとした流し目に、一瞬息を飲んだ。  一瞬だけだったのは、またヤクモが視線を外してのろのろと着替えを着だしたからだ。  俺、今、何かドッキリした?  ……したな。なんで。あいつ男だぞ。  でも……なんか、女みたいに綺麗な、いや、綺麗っていうか…… 「ヤクモ、どうしたの?」  はっと我に返る。Tシャツと短パンをはいたヤクモが小首をかしげて俺を見ていた。 「あ、ああ、大丈夫だ。大丈夫だから!」  急いで用意しあったシャツとパンツを取る。パンツに足を突っ込んでいるとヤクモがじっと見つめているのに気が付いた。 「何見てんだよ」 「人間の体、教えてよ」 「もう遅いから明日! また今度!」  これだからしつこいなまったく!

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