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第4話

 「話って何?」  アイツは俺が呼び出した公園でにこにこ言った。  俺を公園の入り口で見つけたら、駆け寄ってくれた。  嬉しそうに。  まるで親友みたいや。  話は合う。  いや、合わせてくれてるだけかもしれん、俺はコイツと話すのすごい楽しいけど、コイツはちゃうかもしれん  にこにこ笑う完璧な笑顔か余計にそう思えて、ちょっと悲しくなった。  今から余計なこと言うたら、もうこの笑顔もなくなるかもしれん。  こんなん、俺の気がすむだけで、何にもならんことや。  でも。  「ごめん」  俺はいきなり頭を下げた。  アイツは目を丸くした。  そらな、いきなり言われてもな。  俺は思う。  「・・・・・・俺な、俺らが初めてあった日な、おじさんとお前がな、駐車場で話してるの聞いてもうたんや」  俺は言った。  アイツの顔か陰る。   そして、ここをどう上手く振る舞うかが最高速で脳内シュミレーションされているのがわかる。   俺も逆ならするしな。  「・・・分かってる。母さんが嫌いとか、結婚反対とかそう言うんやないって」  俺はソイツが言いそうなことを先に言って言葉をふさぐ。  困った顔。  でもそれが上手くやるための顔じやないのは嬉しかった。     「・・・でも、お前は辛いんやろ」  俺は言った。  「俺も死んだ父さんが恋しい・・・だからわかんねん」     父さんのことを思って俺は言った。  少しだけ覚えている。  その少しはめちゃくちゃ大切で。  暖かい大きな腕と、あまり表情のかわらない顔。  でも、俺は父さんが喜んでいるとか、悲しんでいるとかが分かった。  表情に出ないだけで父さんは感情豊かな優しい人で。  俺と母さんを何よりも愛してくれた。  母さんが父さんを・・・過去にしてしまうのは・・・寂しい。  あまり覚えていない俺でもそうやのに、5年前まで生きてはった母親やったら余計にやろ。  コイツが12の時にお母さんは亡くなった聞いてる。 「そやけど、俺にはもう、母さんしかおらん。母さんが幸せになるんやったら、俺の想いとかもうええねん・・・」  俺は小さくつぶやいた。  「でも・・・お前の想いまでそんなんにするんは悪い思てる。母さんのためにお前の想いまでそんなんにしてまう。そやから、そやから・・・ごめん。」  俺は震えながら言った。  「・・・俺に出来ることやったら何でもする」  俺は本気でいった。  償いってわけやない。  でも、泣き顔を思い出せば、何か何か・・・何かしてやりたかった。  あんな顔をさせてしまったから。  「・・・何でも?」  アイツは驚いたようにつぶやいた。  一瞬、アイツの目がキツくなり、俺は怖くなった。  真っ黒な目がさらに黒く見えて。  なんか喰われるみたいに思ったんや。  怒らしたんかもしれん、思た。  コイツは、もう黙って結婚を認める気やったろう。  心の底で悲しみながら。  でも、ソレはコイツの誰にも触らせたない心の部分やろ。  俺は不躾にコイツの心を触って、不愉快にさせただけかもしれへん。  怒ってるんや。  俺はしょげた。  俺が謝ったところでどうにもならんことやし、俺はコイツが傷ついた原因の一つやのに。  アイツの手が俺にのびてきた。  その綺麗な指が俺の頬に触れた時、少し震えていたように思った。  俺は、触れられた瞬間、その指をやけつくように思えた。  熱した鉄を押し付けられたように。  俺も思わず震えた。  「・・・何でもすんの?」  アイツはまたつぶやいた。  何でこんなにコイツの目は黒いんや。  その目で見られることも熱すぎる。  怖い。  上手くやるための取り繕った顔は見たくなかった。   でも、外した仮面の下にこんな顔があるなんて。  怒ったような、でも無表情な、でもその目の熱量は俺を焼く。  怖い。  こんなん知らん、怖い。   アイツが唾を飲んだのがわかった。    ドクン  なんか心臓がヤバい。  破裂しそうや。  これ、何?   俺はビビった。  アイツの目が黒すぎて。  なんかホンマに喰われそうで。  アイツがため息をついた。  それと同時にアイツは思い出したように笑った。  怖かった何かは消えていた。  もう、いつも通りのアイツやった。  「・・・そんなん言うたらあかん。・・・出来もせんことを」  アイツは言った。  頬に当てられた手はそっと離れ、優しく俺の髪を撫でた。  子供の頭を撫でるみたいに。  「俺はホンマに・・・」  俺は悲しくなって叫んだ。  本気やった。  コイツにせめて、なんかしてやりたかった。  「・・・分かってるで、ありがとう」  それは優しい微笑で、それは嘘ではないけど本当のコイツが仮面の向こうへ隠れてしまったのはわかった。   それがとても、悲しかった。

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