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第5話

 俺は失敗してしまったらしい。  それからも何回が会った。  アイツは俺を避けるわけやないけど、楽しくは話すけど、もうきっちり距離をとられてしまった。  星を見に行く話も、もうしない。  にこにこ優しい笑顔で、当たり障りのない話をし合うだけやった。  悲しかった。  俺が距離間違えたからや。  仲良くなれたかもしれんのに。   でも、驚いたのは引っ越しと同時に俺の学校へ転校してきたことだった。  日本でも有数の進学校に行っていたのに。  「・・・学校変わった位で希望校に入れんわけやない」  さらりとアイツは言ってのけた。  そんなん言うんはお前くらいや。  アイツの希望は関西の最高峰の大学やった。  マジか。  行けるんか。  「通学に時間かかる方かアホらしい。それに、ここ、天文部あるしな」  アイツは笑った。  天文部の女子部員がアホみたいに増えたらしい。  俺も入ろかな、思ってしまった。  星のことを話すアイツの顔が忘れられなくて。  でも、もう距離とられてる今では、親しくなろうとするのは・・・やめた方がいいのはよくわかっていた。  「おんなじ学校なんや、困ったことがあったら言ってな」  余計なお世話やと思ったけれど、言わずにはいられなかった。  コイツは上手にやっていける。  俺以上に上手や。  「ありがとう、なんかあったら頼むわ」  アイツは優しく笑った。  その笑顔は完璧で・・・すごく遠かった。  寂しいな、思った。  距離をとられて、近づけなくされていて、それがつまりアイツの俺に対する気持ち、「必要以上に近寄るな」やと思ってたのに。  アイツのスケッチ。  そして、そのスケッチを前にしてアイツがしていたこと、何度も呼ばれた俺の名前。  アイツが部屋を出た隙に、自分の部屋に逃げ帰り、俺は混乱した。  あれはなんなんや。  壁一枚隔てた部屋でされていたことはなんなんや。  俺はベッドにうずくまった。  この壁の向こうにアイツはいる。  今は勉強しているやろ  アイツの・・・大きかった。  綺麗な長い指かそれをこすってた。  苦しそうに歪められた、切なそうな顔。  あんな顔するんや。  めちゃくちゃエロかった。  俺は自分の指が下着の中に入っていくのを止められなかった。  こんなん、あかん  そう思った。  でも、アイツ俺の名前呼んでたやん。  俺の名前呼びながら擦ってたやん。  アイツの指がここを擦るのを想像した。  先っぽ・・・あんな風にこするんや。  アイツがしてたみたいにした。  弄りだしたら止まらなくなった。    名前呼ばれたのを思いだした。  耳元でそう言われたら、そう思った。  ゾクリとした。  名前呼ばれて、あの指がここを擦るんや。  「・・・あっ、もっと・・」   思わず声が出た。  アイツに触られる妄想は俺をおかしくさせた。   オナニーでこんなんなったことない。  声が止まらなくなるのを、必死でかみ殺す。  いや、オナニー以外したことあらへんけど。  アイツはあるんか。  アイツは女の子にアレを入れてるんか。  あの指で触ってるんか。  女の子やないなら、別の・・・男の別の誰かと。  胸が焼ける。  アイツの声。  俺を呼ぶ。  「はあっ・・・ああっ、気持ちええ」  おかしくなりそうやった。  壁に手をついた。  この向こうにアイツがいる。  壁にまるでそれがアイツであるかのようにもたれかかってしまった。  擦りあげる。  「   」  アイツの名前を呼んで・・・俺も出してしまった。  俺はちょっと絶望した。  俺はどうやら、アイツに惚れてしまっているようだった。  自覚してからの俺はまさに生き地獄だった。  好きな男が壁の向こうにいて、毎晩寝てるんや。  しかも、俺の名前を呼んで、また抜いてるかもしれんとか思ってしまうし、してるところの映像は脳に焼き付いているから、いつでも再生可能やし。  女の子の事考えしてた時なんかとは比べもんにならへん位よくって。  俺は自慰に狂ってしまった。  こんなんあかんのに。  こんなんあかんのに。  アイツは相変わらずで、俺には優しくて必要以上には近寄らせてはくれなかった。  一緒に学校に行くくせに。  俺が出るまで玄関で待っててくれるくせに、絶対に必要以上会話は踏み込ませない。  俺が困ってたら、忘れ物したり、勉強わからんかったりしたら、何気なく助けてくれるくせに、俺が何かしようとしたら断るし。  俺は常に上手くやらなあかんけど、たまに失敗してボロが出そうなったら、ふと手助けして、上手くやれるように手伝ってくれる。  やのに、俺にも上手くやって絶対に素顔を見せてくれへん。  何でや。  俺で抜いてるくせに。  あんな怖いスケッチ描くくせに。  なんでや。   オナニーなんかやなくて・・・俺に触ったらええのに。  俺も触りたい。  触って欲しいのに。  アイツの考えは全くわからなかった。  スケッチのようなあんな怖い視線など、一度も向けられたことなどなかったのに。  いや、一度。  「何でもする」って俺が言うた時だけ、アイツは怖い顔をした。  でもあれは怒ってたんやないのか?  色々考える。  アイツの性欲の対象ではあるけれど、感情はないのかもしれないと考えもした。  それならわかる。  アイツは死んだ母親以外を父親が愛するのか許せんほどの潔癖や。  俺に性欲を覚えることは、感情的に許せへんのかもしれへん。  何で俺なんかは分からんけど、それならわかる。  だから、俺を避けるんかもしれんのも。  それともホンマは俺が好きっで俺が嫌がるかもとか・・・男同士やし、そんな風に思ってるのか?  それやったら・・・どんなにええか、そう思った。

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