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第6話

 「なあ、好きな子とかおるん?」  俺は朝の通学の時聞いてみた。  藁にもすがる思いやった。  もしかして、アイツか俺を好きで、でも、男同士やから諦めているとかやったら・・・なんとかなるかもしれへん、都合がええけどそう思ったんや。  「何、いきなり」  アイツは笑った。  あくまでも、ごまかせる範囲の一般論で聞いたから、アイツは何かは答えてくれると思っていた。  アイツは微笑んだ。  完璧な微笑やった。  悲しいことに。  でもそこから先はいつもと違っていた。  「俺は一生誰とも付き合わへん。そう決めてんねん」   でも、アイツは真顔で言った。  黒い目の深さに眩暈がした。  それがあえて仮面を外して答えてくれていることなのはわかった。  ・・・気づかれているとわかった。  コイツは上手い。  人の感情を読み取るのは得意なはずの俺より上手い。  俺の気持ちを俺は上手く隠せへんかったんか。  人に惚れたことなんてなかったから。  だからこれは、俺にいってるんや。  俺とどうにかなる気はないと。  「・・・そうなん」  俺は力なく言った。  笑顔を浮かべるべきだった。  俺も上手くやるべきだった。  小さい頃から感情隠して上手くやれてきたのに。  「・・・誰ともや。死ぬまで俺は誰にも触らん」  アイツは優しく言った。  お前が嫌いとかやない、そう言われているのはわかったし、ソイツかホンマにそう思っているのはわかった。  俺は上手く笑えなかった。  「先言ってて。俺、忘れもんしたわ」  俺は震える声で言った。  「ああ」  アイツは目をそらし、俺を見ないでいてくれた。  俺は泣いてしまっていたから。  俺は背を向けて走った。  どこでも良かった。  一人泣ける場所で。  俺はフラレた。  告白さえしてへんのに。  どんなに泣いたところで、アイツは家にいるわけで。  卒業するまでの一年ともう少しを一緒に暮らさないといけないわけで。  俺の苦悩はさらに増した。   だからといって、アイツへの欲望がおさまるわけなんかないのだ。  むしろ、性欲だけは増した。  考えてすることだけは自由や。  俺は部屋に閉じこもり、ずっとオナニーしてた。    猿にでもなったかのようやった。  ほのかに誰かを思ったことはあっても、こんな肉欲を伴った恋は初めてで。  諦めなあかん思っても・・・性欲は止まらへんかった。  いっそちゃんと恋か始まって、ちゃんと振られてたなら、気持ちと肉体が同じものやと納得して諦められて、こんな性欲に溺れんでもすんだんかもしれへん。  気持ちだけが切れても、欲望だけはおさまりかつかなくて。  俺は泣きながらオナニーに狂った。  止めたいかった。  触れられもせん身体のこと考えてするなんて不毛すぎる。  どっちにしろ、男同士やし、義理とは言え兄弟やし、どうにでもなるもんちゃうかった。  そんなんわかってる。  でも、妄想の中でやったらアイツに触れられた。  アイツが仮面を外した顔を見せてくれた。  あの人と話していて、流した一筋の涙。  傷ついたような顔。  俺を見つめた怖い目。  ホンマのアイツに会いたかった。  母さんもあの人もちょうど仕事か追い込みで泊まりが多くなっていた。  俺は元々帰宅部やったし・・・。  ひたすら、部屋に閉じこもり、自慰に狂った。  アイツは晩御飯とか作ってくれたりしたけど、俺はただただ自分の部屋に閉じこもった。  アイツも俺か何してるのかは気づいていたと思う。  でもアイツも俺をそっとしていてくれた。  アイツとはできるたけ顔を合わせないようにした。  アイツももう一緒に学校行こうとはしなかった。  いつか。  いつか。  早く。  早く。  上手くやれるようにまで、自分を立て直さなければ。  アイツも俺に気をつかう。   アイツは何も悪ない。  悪いのは好きになってもうた俺や。  アイツはそうならんように俺を遠ざけてくれていたのに。  早く普通に。  早く普通に。  それは本当に願っていた。  やつれ、成績はがた落ち。  ボロボロになっていた。  

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