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第8話

 「友達と会うんや・・・今日は帰らん」  俺は言った。  なんか良く分からないけど、友達と女の子とでどこかに遊びに行って、女の子が俺を気に入ってくれたらそのままホテルに行くはず、だった。  「童貞喰いたいって言ってたから大丈夫やろ。ゴムだけ忘れんな」  友達は言っていた。  帰らへん・・・多分。  女の子が俺を嫌わんかったら。  でもあかんかったらどうしよう。  いや、そんなんはコイツに言う必要はない。  帰らへん。  帰らへんのや!!  「・・・女紹介してもらうんか」  低い声でアイツが言う。  何で知ってんねん。  その声か怖い。  アイツがドアから俺に近づいてくる。  その目が黒い。  真っ黒で怖い。  前に一度見せた・・・あの目やった。  何で?  何で?  俺は分からない。  何で怒ってるんや?  「お前には関係ない」  俺はビビりながら言った。  俺も背が最近伸びて、やっと160センチ後半になってはいても、180センチを超えるアイツに比べたら子供みたいなもんや。  アイツの長い腕がのびてきて、両肩を掴まれた。  ものすごい力で掴まれ、思わず苦痛の声をあげてしまった。  でも、ソイツは力をゆるめてくれなかった。   「・・・好きでもないし、お前を好きでもない女と寝にいくんか!」  アイツは怒鳴って俺を揺さぶった。  めちゃくちゃ怒っていた。  「誰でもええんか、誰にでも身体触らせるんか、誰とでも寝るんか、お前は!」  アイツはまた怒鳴った。   そんな言い方ない、って思った。  そんな風に言われたくなかった。  でも、コイツは普通やないレベルの潔癖や。  結婚したら一人の人間を永遠に愛さなあかんと思ってるヤツや。  コイツからしたらそう見えるんかもしれん。  でも、確かにそうやった。  俺は誰でも良かった。  「何で泣くんや」  アイツがうろたえたような声を出した。  アイツがそんな声を出すのは、そんな風に慌てふためくのは・・・初めて見た  俺は自分が泣いてるのが分かった。  「・・・誰でもええんや・・・」  俺は言った。  泣きながら言った。  お前やないんやったら、誰でもいい。  お前を忘れられるんやったら、誰でもいい。  お前だけが許されへんのなら・・・誰でも良かった。  欲しいんはお前だけやから。  それは、言えへんかった。   「したい、んや。頭おかしなりそうなんや」  俺は泣きながら言った。  お前が欲しくて。  お前に触りたくて。  それから逃れるためやったら何でもしたかった。  「止めんといて・・・お前には関係ないやろ・・・」  俺は言いながら震えた。  嫌われるんやろな、思った。  でもこれで良かった。  嫌われたなら、思いきれる。  目を閉じて、嫌悪の言葉を待った。  次の瞬間、俺は抱きしめられていた。  「・・・アホ。・・・アホ」      何度もアホとくりかえされる言葉か耳元でささやかれていることに狼狽した。   背中に回された腕の感触が信じられなかった。  抱き込まれた胸に自分が顔を寄せているのに驚愕した。  「ちゃんと・・・好きな人とせぇ。お前、そういうヤツちゃうやろ・・・」  アイツは苦痛に耐えるようにそう言った。  好きな人はお前や。  でも、お前俺をいらんやろ。  また涙か溢れてくる。  俺はもう上手くなんかやってなかった。  もう剥き出しのままここにいた。  「・・・ツライんか、そんなにしたいんか」  優しい声でアイツは言った。  「飯もろくに喰わんと・・・そんなに痩せて。そんなになる位ツライんか」  アイツは俺の背中を優しく撫でた。  俺は震えた。  俺が苦しんでいたことを気にしてくれていたのか、と思うと また泣けた。  俺あかん。  人前で泣いたことないのに。  コイツの前やとおかしくなる。  「行くな。そんなんお前やない・・・行くな」  アイツが懇願するように言った。  俺は首をふる。  今抱きしめられているだけで、もう勃起している。  お前に反応してしまう身体がツライ。  忘れたい。  忘れたいんや。  ソイツの腕の中で俺はソイツを忘れることをねがっていた。  「・・・分かった。俺が手伝ったる。セックスってわけにはいかへんけど・・・俺がしたる。それでお前が楽になるんやったら」  アイツはため息をついて言った。  俺は言葉の意味がわからなかった。  

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