11 / 27

第11話

 俺はどうすればいいのか分からなかった。  僅かなその時以外は、互いに距離を取り合い、和やかに過ごし、夜は壁の向こうのアイツを思い眠る。    なんでやねん、と思う。  俺を受け入れてや、と思う。  でも、上手くやっていくことしか知らない俺は、拒否するアイツにどう近寄れはいいのかもわからなかった。  一度、アイツの誰にも触れられたくない心に触れようとして、失敗したことがあるから尚更やった。  人間は欲張りや。  アイツに拒絶され、でも、触って貰えるようになった時にはそれだけでも嬉しいと思ったのに。    俺はアイツが欲しい。  心が欲しい。  触れたい。    でもどうすればいいのか。  何一つアイツからは許されていないのだ。    告白する事も。  自分から触れることも。  何かを訊ねることも。  許されているのは一緒に家族として暮らすこと。  一緒に料理したりもする。  楽しい。  当たり障りのない話をすらこと。  これはこれで楽しい。  何日かに一度、アイツの指でイかされること。  死ぬほど気持ちいい。    これはこれで幸せなんやと分かっている。  欲しがるのがわがままなんかもしれん。  俺か好きな人さえつくらへんかったら、アイツはコレを続けてくれるやろうか。    でも、俺は。  アイツか欲しくて。  もっと欲しくて。  そして、俺は何故だか、アイツが一人暗い森にいるような気がしていた。  アイツは本当は逃げたいのに、逃げられないような暗い森にいるんじやないかって。    アイツは自分は誰にも触らない。  誰もいらない。  そう言った。  ずっと一人でいいと。    何故?  何故?  あんなにも綺麗な男が。  あんなにも人を惹きつける男が。  何故?  謎がある。  もしも。  もしも。    誰にも踏み込ませないのではなく、閉じ込められているのなら。  俺はアイツを助けに行かないとあかん。   アイツの異様なまでの潔癖さは、多分死んだ母親と関係あるんやろうとは思っていた。  アイツが知られたくないことを、勝手に掘り返すのはどうかとは思った。  このままでもいい。   本当に嫌われて、もう触ってさえ貰えなくなったらどうする?  そう叫ぶ自分もいる。  でも。  でも。  助けを求めることさえアイツが出来ないだけやったら。  俺もそうや。  誰かに助けを求めることなんて出来へん。  どんなに助けが必要な時でも。   アイツに飢えて苦しんでいた時も、誰にも相談すら出来へん。  アイツが抱きしめに来なかったら、誰とでも肌を合わせるような真似をしていたやろ。  その結果がどうなったのかは分からへん。  アイツも、ホンマは助けが欲しい思ってるんやったら。  俺は決めた。  嫌われてもいい。  もう二度と触ってもらえなくなってもいい。  あの優しい意地悪な指も、触れるだけのキスも、俺には泣ける位、愛しいけれど。  それが、アイツが冷たい水の中に沈んで行くのをただ黙って見続けることがそれを与えられる条件なら、  俺はそれを失ってもいい。  それをアイツが望んでいるのだとしても。  俺は動き始めた。  こっそりと。  まずはアイツの父親、俺の義理の父親に話を聞くことにした。  

ともだちにシェアしよう!