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第12話

 「嬉しいなぁ、君から食事に誘ってくれるなんて」  あの人はニコニコ笑った。  まあ、この人はいつもニコニコしている。  母さんと組んでしている仕事が軌道に乗り出して、本当に忙しくて、最近二人とも家にはめったに帰ってこない。   今回遭うために、ワザワザ新幹線で東京まで行く羽目になった。  長年母さんに代わり主婦をしてきた時のヘソクリを使った。  母さんは九州にいるらしい。  結婚しても一緒になかなか暮らせない夫婦だけど、こういうのは結婚前からそうなので、気にしてないらしい。  戦友みたいな夫婦なのだ。  「いつも、ふたり切りにして悪いなぁって思ってるんやで」  あの人が本当に悲しそうな顔をする。  本当に悪いと思ってくれているのだろう。  この人は心を隠さない。  本当にアイツの父親かと思う位に。  いい人なんだ。  「・・・アイツのことなんやろう?」  あの人がため息をついた。  あ、こういうするどいとこは親子。  全く外見的にも性格的にも似てないけど。  「アイツには秘密?」  あの人は言った。  俺は頷く。  正直、この人と顔を合わせるのも辛いところはある。  俺はあなたの息子に指でさせているんや、なんて死んでも言われへんことを抱えている。  あなたの息子が死ぬほど好きや、とも言えない。  でも、この人しかアイツのことは知らない。  アイツはこの人の前では泣いていた。  この人の前でだけ、素顔やったから。  「・・・アイツは君のことがスゴい好きやでわかってな」  あの人に優しく言われて真っ赤になった。  いや、そんな意味じゃないってわかってるのに。  「解りにくい子やろ。本当の事は何一つ話さない。でも、君のことは好きらしい。あの子が星を見に行くのに人を誘ったのは初めてみたよ」   あの人は言う。  星。  でも、あれからはさそってくれてない。  あの言葉はなかったみたいになっている。  もうすぐ夏や。  二年生の夏休み。  アイツと星を見に行きたい。  自転車に乗って。  「オレ、踏み込んだこと言ってしまったみたいで、そこからは距離取られているんです」  オレは正直に言った。  「そうか・・・でも、あの子は君が好きやで。仕事の合間に電話しても君の話ばかりする・・・僕んことなんか聞きもせん」  あの人は笑った。  母さんが仕事の隙間に電話くれるみたいに、この人もアイツに電話してたんやろな。  でも、オレの話て。  何の話?  オレなんかした?  いや、してる言うたらしてるけど。  親には言えんやろ。  「君とご飯作ったとか、君が納豆なんか好きやねんでとか、納豆にラー油いれるとか、そんなん」  あの人かオレの不安をさっして言う。  アイツ、そんな話するん?  親しい人にはそんかこと言うん?  心から笑って話すんやろか。  完璧な笑顔じゃなく、崩れたように笑いながら。  俺が納豆買ってきても、納豆にラー油かけてても普通にニコニコ笑ってただけやったやん。  俺にはなんも言うてくれん。  「アイツ、絵上手いですよね」  俺か本当のアイツについて知っているのはこれくらい。  しかも勝手にスケッチブックを見たからなだけ。  でも俺の言葉にあの人は顔色を変えた。  「アイツ、絵を描いてるんか?」  あの人は黙る。  その沈黙が怖い。   「いや、たまたまスケッチブックがあって、チラッと」  俺は慌てて言う。  「・・・何が描いてたかわかる?というより、誰を描いてたんかな?」  あの人か低い声で言った。  「・・・そこまでは。でも静物画みたいやったと思います」  俺は本能的に嘘をついた。  これはアイツが心を許しているあの人にも言っていないことだ。  アイツがこの人には言いたくないことだ。  「静物画・・・そう」  あの人はホッとしたように言った。  そして、俺を見つめた。  「君には話しておいた方がええ。これは僕が君のお母さん、大事な奥さんにも話てないことや」  あの人は話しはじめた。  

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