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第4話 勇者という名の奴隷
ある日、俺は光の勇者という名をつけられた。
大勢いる勇者の中でも光魔法が得意だからと光の勇者と呼ばれる俺は自ら望んで戦ったことなど一度もなかった。
どこにでも掃いて捨てる程いる捨てられた子供のうちの一人。
たまたま見た目がよく、売れる年まで育てている間に魔法の力があるとわかったから勇者候補として選ばれた。
同じ境遇の何人もの子供たちが大人に酷使されて死んだり、職員のおもちゃにされ壊れたり、奴隷として売られるのに比べたら勇者候補に選ばれた俺は幸せだったのだろう。
腹も空かず綺麗な服を着て丁寧に戦う技術を教えられる。
しかし、見た目に酷い傷がつけば権力者たちの見世物として戦う戦奴に、弱ければ貴族のおもちゃにと次々に消えていく候補たちを見ていれば身体はともかく心はすぐに摩耗していく。
役に立たなければ死ぬ。
勇者なんて綺麗な言葉で祭り上げられてもそこにいるのはただの奴隷だ。
底辺の中の上位の地位を捨てたくなくて、俺たちを当たり前に踏みつけ助けられるのが当然と言う普通の当たり前に過ごす大勢の人々に言われるままに俺と同じ食い潰されるだけの勇者候補たちと血を流し身体を擦り潰しながら魔物と戦い続ける。
何人もいたそんな勇者候補たちの中でも俺は上手くいった方だった。
たいした剣の腕も魔法の力もないのに、たまたま見栄えのいい光の魔法が得意で、見た目も金の髪に碧い目と物語の王子のようだったから、このうけのいい見た目を利用するために勇者に選ばれた。
日に焼けないように室内で鍛えられ、俺を利用したい誰かの理想の身体が出来たところで、年を重ね魔力が弱るまでは全盛期の姿を維持できるという身体回復の魔紋を首筋に刻まれた。
戦う為ではなく大勢の前で見せる為の神輿としての姿。
このまま無駄な欲すらかかなければ魔力が弱るまではそれなりにいい生活をすることだってできただろう。
だが、誰でもミスはする。
いくら優男風の見た目といっても身長も高く、筋肉質な俺に群がるのは結婚生活に飽きた年配の女性ばかりだったので油断してしまった。
「少し相談があるんだが」
「よろこんでお伺いします」
まるまると太った家畜のような服だけは豪華な男に誘われ柔らかく笑う。
飾りのデザインからそれなりに高位の貴族だろうが、高位の貴族などみんなにたりよったりの姿なので見分けなど付かない。
また、夜の相手の斡旋かと気を抜いていた俺がバカだったのか。
大きな窓の横のバルコニーでいきなり鼻息も荒く自分よりも大きな俺の身体を組み敷こうとした貴族がバカなのか。
突然背後から飛び掛かられ反射的に振り払ってしまった。
それだけなら、お叱りを受けるだけで済んだのだろうが、奴隷扱いといっても魔物と戦う為に鍛えられた身体は軽く振り払うだけの動きですら貴族の腕を折る力を見せてしまう。
真っ赤になり口汚く奴隷の分際でと喚く貴族を見ながらぐらりと足元が崩れる感覚だけを感じていた。
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