5 / 26

第5話

「光の勇者、肉が焼けたぞ」 「こっちも、スープができそうですよ」   巨大な両刃の斧を背中に背負った額から目尻にかかるように深い傷が斜めに走ったガタイのいい斧の勇者が焚火の上の焼けた肉が刺さった枝を軽く持ち上げる。  側では紫の長い髪を編んで流した線の細い全ての魔法が得意な杖の勇者が白い指でくるくるとスープの鍋をかき回している。 「動くと結界も動くからもってきて」 「光の勇者の結界は便利だけと不便だよなぁ」 「本人が中心にいないと効かないのが普通」  ぶらぶらと俺が張った魔物避けの光の結界の外から採ってきたらしい鳥を斧の勇者に渡しながらにやにやと笑う弓の勇者の横で、いつの間にか現れた黒髪に黒い服の勇者にしては小柄な影の勇者がスープを木の椀に入れて運んできてくれる。 「ありがと」 「魔物の心配なく寝れるのは光の勇者のおかげ」  あまり表情の変わらない影の勇者の口元だけが僅かに綻ぶ。  あの後、貴族に傷をつけた罰として勇者の権利を剥奪されて奴隷として貴族に下げ渡されるかと思っていたのだが、俺の神輿としての名前はそうするには売れすぎていたらしく魔人討伐のグループへと送り込まれた。  知恵のない魔物と違い、人の姿にも似た魔人は言葉を話す異形のモノたちを支配し、魔物すら恐れて近づかないほどの力をもっている。  そんな魔人になど人の作った勇者などがかなうはずもないのに、その魔人たちの王でもある魔王を退治に行くと大々的に送り出された俺たちは、魔物避けの俺の結界を駆使しながら魔人を慕う異形の眷属たちの住処の近くで息をひそめていた。 「影、弓、村はどうだった?」 「あー、ちょっと小さな町って感じ。歩いてるのが石でできた化け物じゃなきゃ」 「子供らしきサイズの眷属もいた」  肉とスープという夜会の食事よりは質素ながらも温かく毒の心配もない食事をもくもくと食べながら近くの領地の偵察に行った影の勇者と弓の勇者の報告を聞く。  魔人を恐れ魔物が近づかない地域にはその魔人と似た種族の魔物に似ていながらも二足歩行で歩き言葉を話す眷属と呼ばれる異形のモノたちが人と変わらず暮らしている。  魔人が魔物より比べるほどもなく強いといっとも異形の眷属たちは一部の幹部を除けば勇者ならば傷つきながらも倒すことができる程度の強さだった。  そして、俺たち勇者と呼ばれた者たちの仕事は、その弱い眷属たちの暮らす人間たちの町より余程栄えた町に襲い掛かり人の技術や魔力では作ることのできない魔道具を強奪して人の国に持ち帰ることだった。

ともだちにシェアしよう!