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第6話

「……子供か……あまり殺したくないな」 「人質にするにも岩では無理でしょうしね」 「……そういう問題じゃないだろ」 「そういう問題でしょう。殺さなければ殺されるのはわたしたちです」  男らしい厳つい顔で眉を寄せるようにぽつりと零す斧の勇者の言葉に紅茶のような赤茶の瞳を向け杖の勇者が優し気に笑う。 「力の強い幹部クラスの眷属を呼ばれても面倒だ。極力見つからないように価値のありそうなものを盗んで、無理そうなら皆殺しだろうな」 「光のっ」 「斧の言うことは正しい。けれど、俺はまだ死にたくないんだ。お前もだろ? 死にたくないなら殺す。どこでも当たり前のことだろ?」 「それは……そうだけど」  俯きぽつりと零す影の勇者はまだまだ若く勇者になってからも期間が短いからわかるとしても、悔しそうに言葉もなく奥歯を噛みしめる斧の勇者は俺より一回りは年上で、この年まで勇者として生きてきたのだからその理屈はわかっているはずなのにいつまでたっても慣れる様子がない。 「ダメですよ。深く考えては、わたしたちは魔人を倒す人間たちの希望。勇者なんですから」 「そうそう。勇者らしく魔物も魔人も眷属も皆殺しだーてっ感じでいんじゃね?」  甘く笑い続ける杖の勇者は笑っていてもその瞳は鈍く光り、けらけらと楽し気な弓の勇者の目はギラギラと光っている。 「二対三だな。なら、俺の作戦で決定だから」 「っ……お前たち…………」 「……わかった」  しんっと静かになりただモノを食べる音だけが響く場所でもくもくと肉を噛みしめながら俺もじっと炎を眺める。  もっと上の人間に覚えのいい勇者は過去になぜか滅びたいくつもの魔人の領に人の国を魔物から守るための結界石を探しに行くという仕事を振られるらしいが、傷つこうが死のうがどうでもいいと思われているらしいできの悪い俺たちのようなグループはそんな汚れ仕事しか与えられてはいない。  いらない子供はいくらでもいる。  魔力のあるような子供だって中には何人もいる。  しかし、魔物の身体の中にある魔石を幾つも使って回復の魔紋を刻んだ勇者は作れるといっても数は作れず使い捨てにするほどの数はいない。  偉い人たちもバカではないらしく武器や道具はいいものを持たされてはいるが、所詮それも眷属の町から奪ってきたものでしかない。  勇者という名の盗賊たちの国の奴隷。  何人もの子供が人間の為という大義名分の為に使い潰され続けている。  そんなどこにでも転がる奴隷の一人でしかない俺は、途中で死んで解放される仲間をどこか羨ましく思いながらも、同じように死にたくなくて生き汚くあがき続ける。   「……これが勇気ある者の現実なんだ」  ぽつりと零した言葉は音にもならずに空気に溶けた。  死にたくない。  死にたくない。  死にたくない。  …………死なせたくない。  力ない瞳の先に俯いたままの何色もの髪の色が映って、閉じた瞼の向こうへと消えた。

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