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第8話

「ずいぶん、賑やかだな」 「っ……」 「ぐあっ」 「うぐっ」  ガガガガガガと何の脈絡もなく身長よりも長い岩の槍が空から降り俺や弓の勇者や杖の勇者の足や腕を打ち抜いた。  とっさに剣で腕に刺さる槍を砕き腕を抜くとすぐにじわりと身体から魔力を吸い出し熱を持つ首の魔紋が腕の傷を修復していく。  それを確かめることなく聞こえた声の方へと見上げれば、石でできた建物の上全身が銀の色彩を持つつるりとした肌の人形のような人型の何かが両方のそれぞれにぐったりとした眷属の建物を探っていたはずの弓の勇者と影の勇者の首を掴み無表情でこちらを見下ろしていた。 「魔人……」  一目で適うはずがないとわかる圧倒的な魔力という圧力。 「もめ事に興味はないんだが遊びに来た友人がどうしても勇者が見たいというので出向かせてもらったが、勇者というのは全て形が違うのだな。どれがいいんだろうか」  感情というものすら感じさせない瞳が俺たちを順番に眺めているが、その瞳に映る俺たちは敵どころか道端の石すらの価値すらないと思い知らされる瞳だった。 「そして、脆い。動かなくなった玩具ではますます違いがわからなくなってしまうじゃないか」  どうでもいいように放された手から落ちた弓の勇者と影の勇者はまだ息はあるようで低く唸るその首元が鈍く光っていた。  逃げろ。  逃げろ。  逃げろ。  頭の奥で誰かが叫んでいるが巨大な肉食獣の口の中に頭を押し込まれているような圧迫感に息すらまともにできない。  俺と同じように反射的に刺さった槍だけは砕いたものの真っ青になりだらだらと汗を流す斧の勇者も、槍を土の魔法で砕いたものの立つことすらできずに呆然と座り込んでいる杖の勇者も同じ状態だろう。 「それほど面白いモノではなさそうだが、どうする?」 「……とっても、とっても、甘い匂いがするんです。さきほどよりずっと甘くて美味しそうな匂いが……」  歌うような声を上げながら俺の横を何かを引きずるような音と共に進んでいく全身緑の光が流れる蔓が人の形を作ったかのような人が進んでいく。  人とは違う光彩のない深い緑の瞳がただまっすぐに斧の勇者の背中だけを見つめている。 「……見つけた」  歌うような。笑うような。甘く響く声が聞こえると同時にぞわりと身体が冷えた。  緑色だが斧の勇者よりも小さな女性めいた顔立ちは柔らかく綻び。その作り物めいた肌すら薄赤く染まっているのに、なぜかそのギラギラとした瞳が見つかってはいけないモノに見つかったのだと教えてくれた。

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