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第9話
「ヒッ……」
「あなたが私のツガイですね。ふふ、とても美味しそう」
ビシッと長いローブ風の形をしていた緑色の服の裾から鈍い音を立て徐々に黒い何かに染まりながら細い蔓が太く古い巨木へと変わり、華奢な身体が斧の勇者を抱いた腕ごと巻き込むように木へと変わっていく。
「……離せっ。ひぃ、やめ」
離れた俺ですら動けない恐怖を目の前で見せられ巻まこれている斧の勇者の恐怖はどれほどなのか。年齢を重ねた落ち着きのある顔は恐怖に引きつり、ただ弱弱しく首を横に振ることしかできていない。
「欲しいのはソレか。なら他は必要ないな」
「ぁ、ぎぃがぁぁぁぁぁ」
屋根の上の銀色の魔人がぽつりと零すのが終わる前に、すでに巨大な木に包み込まれて肩より上だけしか見えていない斧の勇者が喉が裂けるような悲鳴を上げた。
真っ赤に染まった顔はだらだらと汗を滴らせ、見開いた瞳から涙を滴らせながらただ叫び続ける。
鈍く光る首の魔紋が傷を治しているのか光続けているが魔力が追い付かないのか鈍く何度も点滅して徐々に光が弱まっていく。
「っ……なぶり殺しにするくらいなら一息に殺せ」
「殺す? 何を言っているんですか? こんなに私と私のツガイは愛し合っているのに」
まったく邪気もなく不思議そうにまだ残った女性めいた顔のまま緑色の魔人はぐるりと俺へと首を向けた。
うっとりと浮かべられる笑みも何もかもが無駄に綺麗で、魔人とは人とも眷属とも何もかもが違う生き物なのだと思い知らされる。
「ぁ、ぎぁ、ぐぁ」
すでに声すら出せない斧の勇者の首の魔紋の色はさらに暗く光り始め、だらだらと口元から赤い血を滴らせたままぐらりと力をなくした。
「どうしましたか? 身体が冷たくなってきました」
「壊れたのではないか?」
「……壊れた? 私のツガイが? 壊れた?」
ビシビシっとさらに鈍い音を立てて緑の魔人の姿が黒く巨大な何かへと変わっていこうとする。
その間にも脚らしき場所から伸びた太い木の枝らしきものが地団駄を踏むように振り回され、当たった建物や木を砕いていた。
「落ち着け。お前に暴れられると面倒だ。壊れたのなら治せばいいだろう。われらにはわからないが魔王様ならわかるのではないか」
「そうですね。それなら今すぐ行きます」
「ああ、そうしろ。ついでに、そこの勇者もつれていけば何か参考になるだろう。人は我らとは形が違うらしいからな」
「そうですね」
ぶんぶんと振られていた黒い枝がぴたりと止まり、さらに巨大な太さに膨らんだ何本もの枝が巨大な口のような黒い穴を開けながら俺たちへと襲い掛かってきた。
そして、音も光もすべて消えた。
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