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第10話 魔王とツガイと本性
死んだのだろうか。
暗闇に飲み込まれた後、痛みも何もなく鈍い振動だけが終わることなく続いている。
「なんだ。お前がここにくるとは珍しい。ツガイの望みか……別にかまわんが死にかけているぞ。人は脆いからな。だが勇者なら回復の紋があるはずだ。魔力を注げばいい。ああ、礼はいい。暇つぶしに勇者を使って遊んでいた魔人がそうすれば長持ちすると言っていたからな。それとそれはなんだ?」
バリッと木が割れわずかな光と共にどろりとした濁った甘い液体と共に外へと流れ出る。
「ごふ、ごほっ……」
「げふ、がふ」
自分のモノか他の誰かのモノかすら分からない音がいくつも響く。
「私のツガイと同じ人なので、私のツガイが壊れていたらそれから抜いて交換すればいいかと思って」
「ふむ? 人は身体の交換はできないはずだぞ」
「えっ?」
淡々とした会話の意味すら分からずどろりとした液体に濡れたままぼんやりと視線を上げる。
何度か夜会の見世物として呼ばれた貴族たちの屋敷よりも豪華な装飾がされた部屋に斧の勇者を肩まで取り込んだ緑から黒へと色をかけた魔人と赤い短い髪をした黒い肌の質はよさそうなのに無駄に生地の少ない黒い服をきた青年が立っていた。
人ではない証拠にその額からは牛のように赤黒い角が天へと向かい生えている。
モノでも見るような視線が順番に倒れたままの俺たちの上をなぞり、一度通り過ぎた俺に戻った。
宝石のような鈍い金の瞳がギロリと鈍く輝く。
「これが勇者……か……人には興味がなかったので他の魔人や眷属たちの狩りには混ざらなかったが……そうか、|業(ごう)は種族すらも超越するか……それならば我のツガイが見つからないのも当然だな。人はすぐに死んで生まれてくるのだから……」
伸ばされた腕がうずくまったままの俺の腕を掴み長い爪が肉を裂きながら、片手で俺の身体を持ち上げた。
「ぁ、ぎぐ……」
「我に会いたかっただろう? 我が魔人の王で、お前のツガイであり、お前の主になる」
「な……にを……」
ぶわりと酔いそうになるほどの強い魔力が肌を伝って魔紋に注がれ発動した魔紋が壊れたその場から身体を修復していく。流れていたはずの血すら身体に取り込まれ肉が赤い魔人の爪を包み込んでいた。
「人は魔人に詳しくはないのだな。 我は……いや我だけではないな魔人はツガイには優しい。どんな願いでも適えるだろう。しかし、我以外の香りを身にまとうことを許すほど寛容ではない」
ギラギラとした瞳に見つめられたまま腕を捕まれ動くこともできない俺の耳にパチンッと指を鳴らす軽い音が響き、同時に大量な水に包まれた。
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