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第20話 木人はツガイに愛されたい(木×斧)

 人の形を真似た細い指先からとろりと滲んだ蜜を滴らせながら薄っすらと開いた唇に差し込めば、厳つい顔を真っ赤にしたまま赤子のようにちゅーちゅーと吸い付くそのツガイの姿に薄い緑色の頬を綻ばせる。  光彩のない深い森めいた暗い緑の瞳が柔らかく細まり、口に入れていな方の指がツガイの額から目元に走る傷を撫で、頬に生えたざらりとした短いチクチクとした棘を揺らす。  ツルリとした自分とは違う肌の感触も愛おしくて濃い茶色の硬い髪を撫でながらすりっとチクチクした棘のようなものへと頬を擦り付けた。  元々の身体では感じないほどの僅かにちくりとした感触も、汗に濡れた熱い肌も何もかもが愛しくてぞくぞくと身体が震える。  元々繋がる相手などいなくても独りで完結している木人としての|性(さが)なのか何千年もツガイができなくても他の魔人のように欲しいとはまったく思わなかったし、ツガイが死んで狂ったように喚き暴れすべてを壊した挙句に魔力をすべて使い果たして死んでしまうこともある魔人たちを不思議な気持ちで眺めていた。  ツガイが死んだとしても待っていればまた別のツガイが現れるだろう。  魔人の生は永久と同じなのだから、自分以外のたった一人を失っただけで狂う魔人がわからなかった。  けれど、いざ自分がツガイを手に入れてしまった今はもう一瞬たりともツガイの側から離れることができない。  冷たい樹液が流れる樹皮とも、ふわりとした花弁とも違う、獣のような匂いを漂わせているのに守るものも持たないその柔らかな肌を持つ人という生き物がいることは知っている。  眷属からでも、地に生え、風に飛ぶ 私の種族からでも話はいくらでも聞くことができた。  似た種族たちを虐げながらも守る不思議な生き物。  そして、永久に生きる魔人である私たちが瞬きする間に年老いて死んでしまうほどに命が短く、強く触れただけで壊れてしまうほどに脆い生き物。    わずかに目を離した隙に死んでしまうかもしれない。  よそ見をしている隙に誰かに取られるかもしれない。  初めて捕まえた時のように逃げようとするかもしれない。  そう思うだけで本性のままの巨大な木にもどりツガイを抱き込んだまま誰もいない森の奥に消えてしまいたくなる。 「ぁ、ぎぃっ……ぁ」 「ああ、ごめんなさい。つい本性が……大丈夫。怖くないですよ」  ぶわりと抑えられない本性が顔を出しツガイの奥に押し込んだままの身体の一部が膨らみ暴れてしまったせいで痛みを与えてしまったようで、ツガイから香り続けていたねっとりとした甘い欲望の匂いが弱まる。

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