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第6話
「僕達はクローンやって」
助手席で天使は言った。
とりあえず、この世で一番安全なところ、道場に連れて行く。
親父なら天使をまかせて大丈夫。
美人さんは警察を呼んでいた。
警察にはまだ何も言わない。
ただ、銃をふりまわした男達が来た事実だけで
捕まったあいつ等も、何も言わないと言うより言えないだろう。
全員それなりに重体だ。
警察の上部が隠蔽に関わっている可能性は高いと美人さんは言った。
夜の街に生きる美人さんは、権力がどれほど腐り、癒着しているかを良く知っている。
だから、まず、潰す。
つぶして大事にして、ごまかせなくなってから警察だ。
俺は美人さんの車を運転しながらそう考えていた。
俺を追ってるかもしれないが、俺が襲ってくることは考えていないだろう。
俺は確信していた。
だから、今日中につぶす。
「クローン・・・」
俺はSF小説の言葉だとばかり思っていた単語を繰り返す。
「最高級の男娼がオリジナル。他の子達もそう・・・僕は綺麗なんやろ?僕には何が綺麗とか分からへんけど。同じ顔は三人おるし」
天使は笑った。
悲しそうに。
「海外に『工場』がある。代理出産してくれる女の人はいくらでもおるから。で、ある程度育てられたら・・・選別されるんやね」
天使は淡々と言った。
「選別?」
俺は聞き直す。
「従順で、適性がよりあると思える者は『人形』にそうでないとされた者は『内臓』に」
「内臓って・・・」
俺は呆気にとられる。
「角膜、皮膚、血液、人間の身体はかなり金になるて」
天使は無表情に言った。
「そやから、僕はまだ良かったんや生きて身体を売れて。他の子は死んで身体を売られたから。・・・でも僕もお客様の相手が務まらん品質になったら・・・内臓になる」
天使の言葉にどれだけ人間扱いしてないのかを知らされて・・・驚く。
これ以上驚くことがあったなんて。
「僕は製品や。セックスするために作られ、育てられた。人間やない」
天使が呟く。
「そんなん、言うな!いくらあんたでも俺は怒るで!」
俺は怒鳴った。
天使が震えた。
怒鳴っておいてなんやけど、俺はめちゃくちゃ困る困るこまる。
「ごめんなさい、ごめんなさい。怒鳴ってごめんなさい」
めちゃくちゃ謝る。
「でも、そんなん言わんといて・・・あんたは俺の・・・大事な人や」
そう言うのがやっとだった。
黙ったまま運転する。
何を言えばいいのかわからない。
隣りで天使がすすり泣いてる。
とうしたらええんや。
抱きしめたい。
けど、あかん。
「あなたはわかってへん。僕がどんなことされて、どんなことしてきたんか知ったら・・・そんなこと言われへん。僕がどんだけ汚れてんのか知ったら、そんなん言われへん、嫌いなる・・・」
天使は号泣した。
「なるわけないやないですか。なんでそんなん思うんです?」
俺はアッサリ言った。
不思議なことを。
天使が泣き止んだ。
びっくりしてる何で?
「僕が何人に抱かれた思てるん?沢山の人の前で沢山の人に抱かれたこともある、二人に同時に突っ込まれながら、口や手でもさせられた。分かる?それが僕の日常なんよ?言われればなんでもするし、どんなことでも言う・・・そんなんまだマシや・・・絶対に言えへんようなこともされたし、したてきた。何で平気なん?」
天使は震えながら言う。
「平気やないですよ・・・腹ん中ねじ切れそうや・・・でも、それはあんたのせいやない」
俺は低い声で言った。
「僕は誰にでも抱かれてきた。男の人でも、女の人でも。僕は誰でも抱いてきた、女の人でも男の人でも、それでも平気なん?」
この天使の言葉に初めて俺は取り乱した。
「抱くんや?・・・」
その選択肢はなかった。
なかった。
それは考えてなかった。
天使が俺を?
「・・・うん。僕達は何でもする」
天使は微笑んだ。
天使に抱かれる・・・いやいや、それはさすがに。
でも、天使に懇願されたら断れるか、俺。
断れるのか。
いやいやいや。
そういう問題やない。
「とにかく、俺はあなたが好きです」
俺は言う。
本気だった。
言わなきゃいけないと思った。
言っておかないと。
「俺はホームレスのおじいさんを助けるのを躊躇しました。おじいさん痛かったやろうに、悔しかったやろうに・・・俺は人より強いのに、逃げた。なのに、あなたはそんなに華奢な身体でおじいさんに被いかぶさった。おじいさんが痛いのが耐えられなかったから・・・あなたは強い。俺なんかよりずっと強い。俺はそんなあなたが好きです」
俺の言葉に天使は真っ赤になった。
「そんなん言われたん・・・初めてや。僕が、強いから好きって・・・」
天使は微笑んだ。
「あなた本当に変わってる。・・・ええ人やね・・・」
天使の言葉に俺は凍る。
「ええ人」
思えばそう言われてフラレつづけてきた人生だった。
今回だけはアカン。
今回だけ止めてくれ。
「あなたの身体はあなただけのもんや。これからは」
もう、絶対に誰の好きにもさせん。
「人間じゃないから好きなことができる」
美人さんの言葉が蘇る。
金払うたから、ええ思たんか。
人間やないからええ思たんか。
微笑んでるからええと思たんか。
汚いのはこの人やない。
汚い欲望をこの人にぶちまけた連中や。
誰一人、この人の魂に触れようともせんで、欲望だけをぶつけたんか。
踏みにじられながら、でもこの人は・・・強いままでいた。
誰かを踏みにじらせない強さを持っていた。
こんな綺麗な人見たことあらへん。
・・・俺の天使。
家についた。
「俺の家です。ここなら安全です。待ってて下さい。全部終わらせてきますから」
俺は天使に言った。
この人にしてきたもんのなんぼかでも・・・ソイツらに返してやらなあかん。
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