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第7話
親父とおかんに天使を託してきた。
これで大丈夫。
親父は余計なことは何も聞かなかった。
「俺の大事な人や。色々わけありや匿って」
俺は両親にそれだけだけ言った。
生まれて初めて兄貴に感謝した。
兄貴かむちゃくちゃしとってくれたおかげで、おかんは同性の天使を見ても、
「あらぁ、えらい別嬪さんやねぇ」
で、済んだ。
家の前で兄貴の相手の女同士、男同士、時に男と女が出くわして、修羅場になったり、「あなたの子です」と赤子が預けられてたり(結局違った)してきたので連れて来るのが一人なだけでおかんの中ではOKだ。
同性だからどうだと?
孫の顔なら多分兄貴がアチコチで作ってくれるので好きなだけ見れるやろ。
知らんだけでもうおるかもしれんしな。
「・・・すみません」
天使はおずおずと頭を下げた。
不安そうに俺を見る。
「大丈夫ですからここにおって下さい。・・・全部終わらせてきます」
俺は天使に言った。
「全部終わらすって・・・何する気・・・」
天使が色々言いかけたが、おかんにひきずられてどこかへ連れていかれた。
デカくて(全員190センチ以上)見苦しい男ばかりの家がイヤだと、むさくるしい、女の子が欲しかったとずっと叫び続けてきたおかんだ。
天使が気に入ったんだろ。
世話好きのおかんや。
任せとけばええ。
「助けはいらんのか?」
親父が珍しく聞いた。
俺よりでかく。
俺よりはるかに強い。
俺の知る限り最強の生き物だ。
「全部終わったら頼むかもしれへん」
俺は言った。
「そうか」
それで終わった。
親父は一度も人も殴ったことのなかった息子が、突然何を始めたのか全く聞かなかった。
家を離れてしばらくしてから天使の携帯の電源を入れた。
天使から奴らのいる場所は聞き出している。
・・・高級マンションの一室に天使の仲間達、そしてその両隣が事務所だ。
基本は天使達を逃がさないようにするための暴力しか存在していないようだ。
そら、そうだ。
売春組織であって、暴力が主力の組織じゃない。
上部組織がどうなんかは知らないけどな。
目的は一つだ。
派手にやる。
ものすごい派手にやる。
警察やったらもみ消せるやろ。
テレビなんかにも黙らせることが出来るかもしれん。
しかし、この時代や。
ド派手な事件が起こったことを隠し通せるはずがない。
一般人がカメラで撮り拡散する時代や。
そうなってしまえば・・・警察も黙れなくなるはずや。
携帯の電源を入れたのは、今から行くぞという宣言や。
猛スピードで近付いてくる携帯にアイツらはどうするか。
そんなことは知らん。
ド派手に、全部、ぶっとばす。
その高級マンションは当然のようにオートロックで、おまけに受け付けや、ガードマンがいるホテルのようなマンションだった。
当然普通には入れない。
だからその高級マンションのオートロックのドアやセキュリティーをクリアするために、
俺は車のまんま、ガラス張りのロビーにつっこんだ。
受け付けの女の子が固まっていた。
その女の子に、話かけていたにやけた住民だろう男も固まっていた。
俺は堂々とドアを開けおりる。
怪我人は出さなかった。
OKだ。
こんなことしてどうなるのか、弁償とか・・・とか考える今までの俺がどこかにいる。
弁償、裁判、逮捕。
大いにOKやないか。
俺は言ってやる。
それって、この出来事に関わる人間が増えるってことや。
隠せなくなるってことや。
・・・ええやないか。
警備員が飛んできたけど、どでかい俺を見て後退った。
ちょっと体格のいいおじさんだった。
「死にたなかったらやめとけ」
俺は言った。
警備員はしばらく考えていた。
仕事をしなかったことのリスクと、俺と対峙することのリスク・・・。
そして、受け付けのカウンターに飛び込み隠れた。
受け付けの女の子とにやけた男にも指示して、隠れさせる。
正しい。
そして、警察に電話し、全館放送をかけた
「ただ今、武装した男がマンション内に侵入しました。ドアに鍵をかけて、部屋から出ないで下さい!」
俺はにっこりした。
仕事のやり方としても正しい。
俺は武装はしてないが、武装してると言ってもいい。
鍛え上げた肉体こそが武器。
徒手空拳。
我が家の掟だ。
このまま部屋まで行っても良かったが、俺は迎えを待つ。
その前に、だ。
「誰か携帯持ってへん?」
俺はカウンターの向こうに呼びかけた。
「今から面白いもんとるから、拡散せぇへんか、そこのお兄さん、ヒーローになれるで」
俺はにやけた男に向かって言った。
俺はサングラスを動画撮影用にかけた。
兄貴の部屋から持ってきた。
そして兄貴の皮ジャンをひっかけた。
これも持ってきたやつや。
外見だけは極悪だ。
絵的には美味しいだろう。
「よし、いつでもいいで」
俺が言うとにやけた男が真面目な顔で言った。
「スタート!」
俺はわらいそうになった。
俺は、にやけた男が撮しやすいように、ゆっくり動いてやった。
俺は美人さんの車にあったお店のマッチを擦って、車の給油口にそれを放りこんだ。
おそらくにやけた男はそれをアップにさえしているはずた。
ボンッ
車は意外と大きな爆発音を立てて燃え始めた。
映画みたいに飛び散ったりはしない。
でも、どんどん炎は大きくなっていく。
「よしっ!」
そう叫んだのはにやけた男だった。
よし、やないやろ。
俺は苦笑した。
でも人選は間違っていない。
拡散してくれる。
にやけた男と女の子と警備員に、外に出るよう指示した。
スプリンクラーが作動する中、彼らは外へ出ていく。
俺は受け付けの奥の全館放送をオンにして、住民に告げた。
「火災発生。正面玄関が燃えてます、非常口から逃げて下さい」
これで、ここの住民にももう、この事件は人事じゃなくなった。
怪しいと思ってたはずや。
綺麗すぎる大勢の男の子達。
強面のここの住人には相応しくない男達。
でも、大人しく、ここでは何一つ問題を起こさなかったから。
自分達には関係ないから。
誰も何もしなかったのだ。
俺はスプリンクラーの雨に濡れながら思う。
そういや、美人さんの車だったな、コレ。
今思い出した。
俺は殺される。
ここで助かっても間違いなく、美人さんに。
でも、だ。
とにかく全部終わらせないといけないんやな、俺が。
お迎えが来た。
銃を隠すことなく持って。
ロビーの奥にある待合室で、隠れていた人達が悲鳴をあげた。
良いねぇ。
これでまた、隠されていたモノが外に出てきた。
自分で正体をさらし初めている。
全部出せや!
アイツらは躊躇なく撃った。
俺とアイツらの間にあった、待合室とロビーを隔てていた窓ガラスが、粉々にくだけ燃える車の光を浴びて、クリスタルのように光った。
俺はカウンターを飛び越え、砕けたガラスの降る中を走る。
刺激臭のする煙を出来るだけ吸わないように。
煙は俺を覆い隠してくれた。
それに、動いているモノを撃ったヤツがどれだけいるか、こいつらの腕はあやしい。
こいつらの銃など怖くはなかった。
こいつらが何をしていたかを俺は知ってる。
天使達が逃げないように脅し、見張り、上の連中
にバレないようにこっそりと犯していた、そんなことだけしかできないような、クズみたいな連中だ。
お前らに俺が撃てるわけがないやろ!
頬を弾がかすめた。
血が出る。
あれ?・・・当たることもあるかもしれんな。
でも、俺には銃弾などきかん。
俺はそんなもんには負けん。
根拠はないけどな!
俺は俺を撃ちやがったヤツの腹を思い切り蹴った。
ソイツは吹き飛び壁にたたきつけられ、意識を失った。
後3人。
真っ白な煙。
でも俺にはわかる。
音と気配があればいい。
俺達は目隠しして組み手をすることもある。
目だけには頼らないのだ。
蹴った。
殴った。
絞めた。
銃なんか持ってるだけなら意味もない。
俺は応接ルームの窓ガラスに向かってソイツらの銃をぶっ放した。
窓ガラスは全部飛び散って、外の空気が入り、白い煙がかなりマシになった。
応接ルームに隠れている人達に俺は言った。
「窓から外へ。煙は出来るだけ吸わないで」
住人達は外へ飛び出して行った。
さて。
部屋へ行こう。
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