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第8話

 天使達の仲間は閉じ込められているのは間違いないから、そのままにしておく。  天使達の部屋は外からしかドアも窓も開かない。  本当に火事になっても、絶対に部屋から出されることはない。  その場合はもったいないが死んでもらうと言う考え方だ。  逃走の可能性につながることは一切許されない。  客と会う時だけ外に出れるが、服用して一、二時間で欲情する麻薬のようなものを投与される。  コレは客へのサービスの意味もあるけれど、逃亡予防にもなっている。  天使が欲情していた理由だ。  天使から聞いた話は酷すぎるものばかりだった。  消防車のサイレンが聞こえた。  警察のサイレンも。  さて、終わらせるとしよう。  俺は天使達の隣にあるヤツらの事務所のインターフォンのボタンを押した。  来たのが俺だともうわかっているはずだ。  ガチャ  鍵が開く音がした。  開けてくれるんや。  俺は笑った。    ドアのノブをあけた。   中に身体が入った瞬間、銃声が何発もひびいた。  苦痛の声をあげながら、体に沢山の銃弾が撃ち込まれる。  そやね。  俺は思った。  ドアを開けて入ってくるとこを狙うわな。  でも、それはアイツらの仲間だった。  俺が意識が戻りそうなヤツを片手でひきずってきたのだ。  開いたドアに押し込んだのだ。  お前ら仲間に対して酷すぎるやろ。  俺は仲間を撃って混乱しているその瞬間部屋に飛び込む。    もう、こうなりゃ、銃なんて関係ない。 一人殴りつけた。  変な音がしたこら首の骨折れたかもな。    ああ、もう4人しかいないのか。  リビングを改装した事務所で、ヤツらは震えながら銃をお守りみたいに握ってた。  誰かが銃を撃った。  俺じゃないやつが悲鳴をあげた。  ちゃんと狙ってないから、ほら、仲間に当たってるて。   俺は焦ることなく落ち着いて動く。  俺は殴る場所や蹴る場所を間違えない。  一撃で倒す。  最後の一人を残して、皆、床に倒れていた。  ソイツらが自分達で蜂の巣にした仲間が、低く呻く声だけが事務所に響いていた。  俺は最後の一人に近づく。  「助けてくれ・・・」   最後の一人は銃を捨て、懇願した。  まるで床を舐めるように頭を下げる。   俺は不思議に思った。  「お前はあの子達が止めてって言ったら止めてやったのか?なんで自分は止めてもらえるって思うんや?」  疑問だったので、聞く。  天使が短く語っただけでも、コイツらは最低だった。  逃げようとした天使の仲間を、天使達の前で見せしめとして、犯しながら殺したことを俺は知っている。  「・・・あんた勘違いしてる。アイツらは人間じゃないんや。セックスドールや。人間みたいに、見えるだけや。だから、楽しんだだけや。ええんや、アイツらもそれで喜ぶように出来てるんやし。本当の人間には出来へんようやことをするためにアイツらはおるんや・・・アイツらは人間やない」  ソイツは叫んだ。  「隣の部屋の鍵は?」  俺はそれだけを聞いた。  ソイツはポケットから鍵を取り出した。  俺は受け取った。  そしてソイツの後頭部を掴んで床にたたきつけた。  グシャリと潰れた音が、鼻が折れた音かそうでないかなんかどうでもよかった。  「人間やないからやと?・・・泣いて苦しむもんには心があるやろが!心があったら人間や!それを踏みにじれるお前らこそ、人間やない!」  俺は怒鳴った。  どうせ聞いちゃいないだろうけど。  腹が立った。  コイツら天使達を閉じ込めて、虐待していたヤツらに。  腹が立った。   天使達を買い求めた、おそらく金のあるご立派なヤツらに。  腹が立った。  天使達を作り出したヤツらに。  腹が立った。  何かを感じてたはずなのに、無視し続けていたこのマンションの住人たちに。  腹が立った。   天使達の存在を隠蔽するのを助けていたヤツらに。  人間?  人間なんか最悪や。  こんなんが人間やとしたら・・・。  人間でいることの方が最悪や。  俺は天使を思った。  汚れた老人の上に躊躇なく覆い被さり、拳や蹴りから守ろうとした天使。  老人の叫びや悲鳴や助けから、逃げなかった天使。     俺も逃げたあの時、老人の叫びから。  あの時あの場所で人間は皆逃げた。  でも天使だけは逃げなかった。  天使に会いたかった。  天使をだきしめたかった。         

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