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第9話
隣の部屋を開けた。
天使の仲間達がいた。
ただ、逃亡をおそれたためか、全員裸で・・・俺は鼻血を出した。
嫌、全員男なはずなんやけど・・・わかってたけど、すげぇヤらしい。
アカン、勃つ。
俺には天使がおるからあかん。
今回一番のダメージだった。
天使達は最初こそ悲鳴をあげたが、鼻血を出してうずくまる俺を見て、警戒をといた。
「・・・み、皆さんの、ふ、服はどちらに・・・」
俺は聞いた。
「隣の事務所の奥に」
誰かが言った。
俺は慌てて、隣に戻り、倒れたヤツらのを踏みつけて通り、奥の部屋に行った。
確かに部屋ごとクローゼットになっていた。
いろんな服でいっぱいだった。
天使が着てたカジュアルな格好から、女性用のドレス、コスプレ用の衣装まで色んなあった。
コスプレですか。
天使に着てもらえたら・・・。
あかんあかん。
俺は妄想をすてて、とにかくカジュアルそうな服やら下着やらをせっせと隣の部屋に運んだ。
天使の仲間達が服を着てくれたからやっと、彼らを観ることができた。
「クイーン」
切れたがった目をした、シャープな美しい顔をした東洋の花のような彼らのことか。
「ヴィーナス」
ゴージャスな金髪と青い目の彼らだろう。
「ファアリー」
童顔の可愛らしい大きな目が印象的な彼らだろう。
「エンジェル」
俺の天使に良く似ていた。
優しく繊細な顔立ち。
でも、・・・似ていても違う。
俺にはわかる。
天使はこの世に一人きりだ。
エンジェルの一人が俺に尋ねた。
「A-2と一緒に逃げた男の人ってあなた?」
天使のようにハスキーな、でも、俺にはそれでも違う声で。
「A-2?」
俺はそれが天使のことだと思い当たる。
それは名前ですらなかった。
「ANGEL_2。僕がA-3」
彼は言った。
名前じゃない。そんなものは名前じゃない。
俺は悲しくなった。
天使には名前さえなかったのだ。
「そう。君たちも逃がしにきたんや。君達のことを心配してはる。・・・ここから出よか」
俺は行った。
11人の天使の仲間達を連れて、俺は部屋を出た。
もう誰一人・・・この部屋にはかえさない。
「おい、こら」
部屋を出たところで声をかけられた。
まだ誰かおったんか、と俺は振り返った。
俺と同じ位の長身、チャラく長い髪、ピアスだらけの耳。
兄貴だった。
美人さんが連絡してくれたんやろ。
「なんや・・・今頃。遅いねん」
俺は愚痴った。
「お前が正面口で燃やしてんの俺の親友の車やないの?・・・お前殺されんぞ」
兄貴は楽しそうに言った。
ヤバい。
忘れとった。
「何しにきてん」
俺は言う。
兄貴はニヤリと笑った。
「アホやろお前、隣の部屋のパソコンに何入ってると思ってんねん。顧客情報やぞ。これがどれくらいの価値になるおもてんねん。後、金の流れな、パソコンのデータ抜き取ってたんや」
しれっと兄貴は言った。
パソコンが入ってるだろうバックパックを背負ってる。
ハイエナよろしく、弟がからだをはった場所で金になるものを漁っていたらしい。
「うわぁ、別嬪さんばかりやなぁ」
兄貴は俺の背後から兄貴を見てる天使の仲間達を見てにやけた。
「僕ね、困った人達を助ける仕事してるんやんか、この先なんか困ることあったら電話してね?」
兄貴は唐突に自分の名刺を配りはじめた。
「ダメですよ。コイツに関わったら男でも妊娠させられますからね」
俺は天使の仲間達に言う。
本当に妊娠させかねん。
絶対にこの男とだけは関わってはいけない。
「下に警察いるで」
兄貴が言った。
「しってる。親父に頼んで」
俺は言った。
「・・・親父だけやなくて、兄貴にも頼れ。今回お前はようやった。俺も助けたる」
兄貴に子供時代のように頭を撫でられた。
「ほな、俺はこそっと消える」
兄貴は事務所の中に消えていった。
窓から逃げるのだろう。
ここは10階だが兄貴にはたいしたことないだろう。
侵入窃盗は得意な男だ。
「行きましょうか」
俺は天使の仲間達を連れて、一階へ降りていった。
降りたところで待ち構えていた警察に俺は大人しく拘束された。
・・・とりあえず、今日は天使にもう会えない。
頭を隠され、パトカーに連れていかれる。
ホンマに犯人みたいやと思った。
ヘリコプターの音、レポーターの声、沢山のカメラ。
思った以上の大騒ぎにすることができた。
同じ顔立ちが何人もいる、美しい青年達の姿もカメラはとらえていた。
もう、なかったことにはならないな。
俺の勝ちだ。
結論から言えば俺は一週間で家に帰れた。
まあ、これも腐った話のおかげで。
一つは親父が国からの仕事を非公式に手伝っていると言うのがある。
なんや、ヤバいことを力づくで解決するらしい。
そのコネと、親父はまぁ、知る人ぞ知る格闘家で、その高名は裏社会から警察、自衛隊までに浸透していて、力になってくれる人は沢山いたこと。
そして何より、取引があった。
兄貴が引き出したデータには、警察上部、政界、財界の権力者の何人かが「お人形さん遊び」にハマっていたことを示す証拠もあった。
そして、天使達。
彼らはお客様の情報をきちんと理解していたし、人間でないからと、安心して彼らが話した言葉も覚えていた。
天使達はヤバい情報の宝庫だった。
取引だった。
美人さんから話を聞いた親父は海外の「工場」を潰すことと、天使達の身柄と、俺の自由と引き換えに、取引きをのんだ。
工場は翌日には踏み込まれた。
子供達は保護された。
ただし、子供達以外はもうその工場からは消えていた。
悔しい話ではある。
本当に悪いヤツらは捕まることもない。
確かに俺は今回、犯した罪を数えたらいくつになるのかわからん位の犯罪を犯した。
助けるために。
俺思ったんやけど、正義の味方ってすごい量の犯罪犯さんと、正義を執行できへんのちゃう?
でも、それ以上の罪を犯したヤツらや、それを見てみぬふりをしていたヤツらは・・・無罪なのだ。
でも、いい。
工場がなくなり、子供達が助かった。
そして、天使達が助かった。
それだけでも・・・いいと思うしかない。
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