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第10話

 親父が車で迎えに来てくれた。  「お前を迎えに来る日があるとはな」  運転しながら親父が笑った。  うん。  俺も兄貴じゃなくて俺が警察から帰る日がくるとは思はへんかったよ。  俺は車の中で緊張していた。  すごく緊張していた。  親父が笑った。  「家に帰れるのになんで、そんなに真っ青になるんやおまえ。ブタ箱の中の方がくつろいどったやん」  だって、家に帰ったら天使がおるやん。  親父からおかんと仲よくやっていると言うのは聞いている。  それに・・・それに、俺を心配して泣いたって話も聞いた。  マジか。  死ねる。  そう思った。  やっと会える。   無精髭だらけなんとか、今更気になった。    髭とか触ってたら、親父が笑った。  「お前は中身で勝負しなあかんタイプやから、気にしてもムダやぞ」   親父の言葉に腹が立つ。  「俺は親父似、やで」  言い返す。  親父はまた笑った。  「・・・いい子やな」  親父が言った。  天使のことだと思った。  「うん」  俺は頷く。  両親に好きな子知られてんのってアレやなぁて思った。    「・・・本気やねんな、適当は許されんぞ。ただでさえ傷ついてきたんや」  親父が言った。  「俺は本気や・・・俺はな」  俺は言った。  小さい声で。  向こうはどう思ってくれてるかわからない。  「・・・フラレても泣くなや」  親父は言った。  「泣くわ・・・」  俺は言った。    信じられるか。  俺が玄関に入ったら、天使が俺の胸に飛び込んできたとか。  俺は呆気にとられて、しがみつく天使をどうすればいいのかわからなくて、抱きしめていいものか、あかんのか、自分の腕の行き場に困ってしまった。  天使が俺の胸の中で泣いてる。  声を上げて。  ええ。  ええ。  どうすればええんや。  おどおどしながら天使の髪を撫でた。   ・・・正気で向き合ったのは・・・これが初めてで、俺は俺は昔から好きな子ほど話が出来ないタイプで・・・。  「えっと・・・すみません、ホンマ・・・すみません」  とうすればいいのかわからんまま謝る。  抱きしめていいのか、あかんのか。  天使はますます強くしがみついてくる。  俺はそっとその細い背中を抱きしめた。  俺が力を入れたら、天使を殺してしまうからそっと。   親父がそれを見て笑ってた。  いや、めっちゃ気まずいんですけど。    親父が車の鍵を投げた。  掴む。  「ちょっと・・・話してこい、なんなら今日は帰ってこんでもええぞ。母さんには言っておくから」  親父が言った。  帰ってこんでも・・・て。    俺は赤くなった。  でも、話をしなきゃいけない。  ・・・とにかく、話をしないといけない。  「借りるわ。ありがと」  俺は礼を言った。  天使がしがみついて離れないから、抱き上げて、また車に戻った。  運転席に天使を抱えたまま座る。  どうすればいいんだ。   俺は困る。   困ってるのは下半身もだ。  どうしよう。  勃起してるし。  天使は泣きながら俺の首筋に腕をまわしてきた。  首筋に天使の頬が擦り付けられる。  これ以上はヤバい。    俺がヤバい。   ブチ切れる。  天使の安全の為に天使に離れることを促そうとした時、天使の唇が俺の唇に重ねられた。  天使から俺にキスしてきた。  ・・・固まる俺の唇を天使は舌でなぞる。  ゾクリとした快感が走る。  淫らな動きで舌は唇を割り、俺の口の中に侵入してきた。  「待っ・・・」  待ってと言おうと思った。  天使は待ってくれなかった。  俺はキスだけで射精させられたことを思いだした。  ヤバいヤバいヤバい。  貪られているのは俺だった。  「あか・・・」  あかん、と言わせてもらえない。  舌を引きずり出されて絡められる。  淫らな動きに翻弄される。  口の中を蹂躙された。  マジで。    こんなんヤバすぎる・・・。  でも、止めて・・・あかんて、ちょっと止めて・・・家のガレージで射精させされるのはちょっと・・・  肩をつかんで引き離そうとしたら、知らない間にズボンから取り出されていたものを扱かれて、感じてしまって動けない。  なんでなんで。  いつの間に!!  天使は泣きながら、俺のを扱いていた。  思わず声を上げてしまう位、その指はいやらしかった。      やめてそこばかりすんのは・・・。  先端の穴のあたりを執拗に擦る指先のいやらしさは、強い快感に変わる。  「それ、ダメ・・。あかん」  俺はキスから逃れ喘ぐ。  射精しなかったのはひとえに、家のガレージは嫌。  という思いからだけだった。  「お願い・・・やから・・・やめて」  懇願するように、そう言ったのは天使じゃない。  俺の方だ。  これじゃ俺が犯されてるみたいやん。    てか犯されてるやんこれ。  唇から逃げたかわりに首筋を舐められる。  その舌の動きが、唇で首筋を吸われる感触が、怖いくらい、いい。  やめてもらえない。  振り払えない。  こんなに非力な体を。    「あかん・・・ダメや・・・」  俺は呻いた。  めちゃくちゃ気持ち良かった。  「イって・・・」    天使の潤んだ眼が俺を見つめていて。    俺はもう、ダメで。  イカされてしまった。  

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