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第11話
俺の精液は天使の顔に飛んで、俺は焦った。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
俺は慌ててダッシュボードのティッシュで天使の顔を拭く。
天使の目がヤバい。
潤んでて、思いつめてて。
天使の手が俺が着ていた兄貴の革ジャンのジッパーを下ろす。
そして、着ていた服をまくりあげ、俺の肌を弄る。
「ちょっと待って、ちょっと待って」
俺は叫ぶが止まってくれない。
手を離そうとしたら、イったばかりのそこをまた扱かれ、キツすぎる感覚に声をあげてしまう。
向かい、俺の膝に乗ったまま天使は俺を蹂躙する。
恐ろしい。
恐ろしい。
俺が、俺が、されるがままなのだ。
徒手空拳で、拳銃持った連中には立ち向かえたのに、天使の指と唇だけで、何もできなくされている。
テクニックが・・・凄すぎて、天使としたのが二人目であるまだまだセックス初心者の俺では翻弄されるだけなのだ。
天使は服をまくりあげ、俺の胸に唇を落としていく。
ちょっと待って、そんなとこ開発せんといて、お願い。
出したばかりのモノを擦られるのは、ツライような気持ちいいような、とにかく、声が出てしまう。
「気持ちようしてあげる。僕がめちゃくちゃ気持ちようしたげる」
天使が潤んだ目で切なく囁くのがヤバい。
あかん・・・やめて、ホンマやめ・・・」
乳首を噛まれて俺は喘いだ。
ヤバい。
ヤバい。
こんなんあかん。
「お願いや!止めて!」
俺は怒鳴った。
ビクン。
天使が震えた。
やっと・・・止まってくれた。
ヤバかった。
ヤバかった。
あのままやったら後ろに入れられても受け入れてしまいそうやった。
まさかせんとは思うけど。
せえへんよね?
ねぇ?
天使の顔がクシャッと歪んだ。
「何で・・・嫌なん・・・僕のこと、もう嫌いなん・・・」
天使が声を上げて泣き始めた。
子供みたいに。
「僕・・・あなたにしてあげれること、こんなことしかないんや」
そうか。
そうか。
天使は普通の恋など知らない。
天使は好意の伝え方をセックスでしか知らないんだ。
その好意がどのレベルなのかは分からないけど。
「違うから。違うから。めっちゃ嬉しいから。でも、まず話がしたいねん。分かって」
俺は天使を抱きしめた。
天使は俺を襲わず大人しく抱きしめられてくれた。
天使がおちついてくれたし、俺もどうのこうの言って出してしまったから落ち着いたので、車を走らせた。
めっちゃ良かった。
良かったと反芻してしまいそうやけど。
もう、街は夕暮れに染まっていた。
「・・・ああいうことするヤツ嫌い?僕のこと汚い思った?・・・僕あんなことしか出来ることないから」
天使が呟く。
「ちょっと待って下さいね、車とめますから」
俺は天使に向かって微笑んだけど、多分見えてない。
天使は自分の膝を見つめ、涙ぐんでいた。
俺は川沿いの車道から、堤防にあがり、河原へおり、車を停めた。
そして、俺は言った。
「お話しましょうか。そんな顔せんといて下さい」
俺は助手席の天使の顔をこちらにむけた。
泣きそうな顔。
「怒ってる?」
天使は涙を貯めた目で俺を見つめる。
「怒ってへんし、嫌いになんかなるはずもない。俺はあなたが好きや」
俺は言う。
「ほんならなんで?」
天使は尋ねる。
「両親が近くでいる場所とか、ガレージではしたくなかったんです」
俺の言葉を天使は理解しない。
「なんで?」
天使は不思議そうだ。
天使は命じられれば誰の前でもセックスしてきたし、どんな場所でもセックスしてきたからだ。
それが異様なことである知識はあっても、どの程度までならいいのかとかは理解してない。
というより、この前俺が美人さんの店で、天使としたから、天使にしてみれば人のいないガレージですることのどこが悪いのかわからないわけだ。
つまり、俺が悪いわけで。
「・・・俺はちゃんとベッドとかそういうところでしたいです。一応、多分。たまにはちゃうくても、いや、まぁ」
俺は支離滅裂なことを言う。
だって、ベッド以外って悪くないかなって思ってしまったんや。
「・・・何言ってんのか分からない」
そう言う天使が正しい。
「まあ、その辺はまた話合うとして、あなたは俺が好きなんですか?」
俺は緊張して聞く。
「俺に恩とかそう言うの感じてるんやったら止めて下さい。せっかく自由になれたんです。自分の好きなように生きて下さい。俺をフっても気にせんでええ。家にもおって下さい。おかんはあなたが俺をフったん気にして家からおらんなるなら、俺の方が家を出ていけ云うてます。そやから、俺をフっても俺が家にいれるように、家におって下さい。あなたが諦めろ言うなら俺は・・・あなたを諦める」
でもずっと好きでいる。
これは言えない言葉だ。
天使の目が震えながら俺を見つめている。
俺は緊張する。
マンションに車で飛び込んだ時より緊張した。
天使は・・・自分の持ってるモノ、やっと自分だけのモノになった身体を与えようとしてくれた。
それが最大限の好意であることは分かっている。
だけどそれがどういう好意なのかは・・・分からない。
深い感謝なのかもしれないし、命には命をみたいな「借りには借り」みたいなものなのかもしれない。
言って。
何だって受け入れる。
「僕、・・・分からへん」
天使が言った。
俺を見つめながら。
俺は拍子抜けした。
まあ、そうだな、そうだよな。
出会ったばかりやし。
そして、ちょっとホッとした。
ふられてはいないのだ。
「・・・俺は俺を好きなあなたとしかしたくないから、俺とセックスせんでもええですよ」
俺は言った。
それに一緒に暮らしてたら、俺を好きになってくれるかもしれへんし。
やる気が出てきた。
「家に帰りましょう・・・」
俺が言いかけた時やった。
また天使がしがみついてきた。
「あかんて、言うたでしょ」
俺は慌てる。
襲われたら、抵抗できへん。
あかん。
そんなんあかん。
「ちゃんと・・・最後まで聞いて欲しいねん」
天使が言った。
俺の胸にしがみつきながら。
その必死さに俺引き離そうとするのをやめた。
「・・・分からへん。誰も好きになったことないねんもん。でもな、僕には選択の余地はないんや。悪い風にとらんといて。あなただけなんや!」
天使が叫ぶ。
「客に色々されんのも、あいつらにええように犯されんのも日常やった。助けを求めることさえ考えてへんかった。あの日も殴られ気を失いながら、車の中でまたされるんや思てた。自分は人形なんやからしかたない思てた。薬でオカシなってるからええか思てた。でもあなたは助けに来てくれた。あなただけが」
天使が俺にしがみつく。
「僕を好きなようにする人はいても、僕をイかせたがる人はいても、僕に気持ちようなって欲しいと思ってくれたんはあなただけやねん」
天使は俺を見つめる。
必死で見つめる。
「僕に同情しながら貪る人はいても、僕を自由にしようとしてくれた人はあなたしかおらん。命まで懸けて自由にまでしてくれたんもあなただけや。しかも、僕にセックスせんでもええと言ってくれたんはあなただけや。男娼を家に連れて行って、『大事な人』言うんも、僕に家族をくれようとするんもあなただけや」
天使は俺の肩を揺さぶった。
「他には誰もおらん。あなただけや!あなたしかおらへん!だから僕はあなたが欲しいんや・・・分かってや!」
天使が俺の胸をポカポカと、殴る。
痛い。
痛い。
こんな痛い拳知らん。
でも、届いた。
天使は俺が欲しいんや。
俺が。
俺だけを。
「俺でいいんですか」
俺は震える声で言った。
「他にはおらへん」
天使が言った。
「・・・あなたのもんや」
俺は言った。
震えながら抱きしめた。
「俺はあなたのもんや・・・」
俺の言葉に天使はやっと笑った。
「・・・抱いて欲しいねん、言うたらひく?」
天使の言葉にまた鼻血が出た。
「・・・あれやったら僕が抱いてもええよ?」
天使が無邪気に言った。
「・・・それだけは勘弁して下さい」
俺は断言した。
天使がその気になれば、俺なんか簡単にヤられることが身にしみてわかったからだ。
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