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第13話
この話の結末には、良い結末と、悪い結末がある。
良い方からいこう。
俺は天使を手に入れた。
可愛い俺の・・・パートナーだ。
親公認どころか実家で同居してるわけで。
でも、今のままではちょっといちゃいちゃしにくいので、真剣に天使連れて実家を出ることを考えている。
でも、おかんに許してもらえないかもしれない。
お前だけ出て行け言われそう。
実家で声殺して、耐えるように泣く天使を部屋で抱くのもこれはこれで・・・ええんですけどね。
あんだけ親が近くにおるとこですんのは嫌やと言いましたが一緒に住んでたら我慢なんかできへん。
声を我慢して口を必死で抑えて、シーツを握って堪えてるところに、「声聞こえてええの」言いながら攻めたててしまってます。
我慢されると燃えるってこと、初めて知りましたね。
今では天使には名前がある。
俺がいない間におかんが、勝手につけていた。
それは男にも女にも使える優しい名前で、天使に合っていると俺は思った。
天使は懸命に外の世界に溶け込もうとしている。
俺はあれだけ犯罪を犯したのに、会社をやめさせられることなく、まだホームセンターで働いている。
国が全ての幕引きをはかるために、マンションに車で突っ込み、銃撃戦のあげく、監禁されていた男性を助けた男は留置場で自殺したことにされた。
男の正体は謎のまま。
なので俺はあの事件とは関係なく、交通事故で入院していたことになっており、仕事に戻れた。
「お前あの事件の犯人みたいやな」
めちゃくちゃ言われているけれど、デカいのに存在感のないホームセンターの店員とあの事件の凶悪犯を結びつける人はいない。
天使達については被害者のプライバシーに関わることなので言えない。
警察はそれで押し通してた。
美人さんの車だけど。
兄貴が俺に代わって弁償していた。
殺されずにすんだ。
あのパソコンの中のデータは相当金になったらしい。
今回ばかりは兄貴に感謝だ。
兄貴の抜き出したデータがなければ、俺は親父のコネを使っても・・・何年かは入らないといけなかっただろう。
それは覚悟の上だったのだけど。
悪い結末。
天使の仲間達のほとんどは亡くなった。
12人いた「人形」達のうち、10人が自殺した。
国から補償の金を引き出し、親父の知り合いがやってる人権団体が色々助けてくれ、自活にむけて頑張っていた最中だった。
悪夢から逃げられなかったのだ。
無感動に感情を切り離していた生活から抜け出し、感情が戻ってきた時、忘れていた死にたいと云う思いが蘇ってきたのだ。
そして今、見張りに邪魔されることも、自殺が失敗した時、酷いことをされる心配もないことに気付いたのだ。
彼らは喜んで静かに死んで行った。
ほぼ同じ日に。
手首を切るか、首を吊るかだった。
閉じ込められていた時はいつも見張られ許されなかった憧れの自殺の方法なのだと天使は言った。
「舌かみきるか・・・生きるかを選ばされて僕達はあそこにいたから」
天使は泣いた。
「あまりにも憧れてたから・・・やらずにはいられへんかったんやな」
俺は怯えた。
天使も行ってしまうんじゃないかと思って。
「僕は大丈夫。あなたが僕を引き止めてくれてる」
天使は言った。
でも不安で俺は天使を抱いてしまう。
ここにいるのを確かめたくて。
この儚い身体が消えてしまうのが怖い。
俺を置いて行かないでと伝えたくて。
ひとり残った天使の仲間は姿を自分から消した。
死んでない、と天使は断言する。
死に捕まらないために逃げ出したのだと。
「何かあったら兄貴の名刺に電話してくれるかもしれんしな」
俺も生きていて欲しいと思っている。
海外の「工場」の子供達は順調に外の世界に慣れて行っているという。
子供達は柔軟で強いから。
「会いたい」
天使が言うから、来年あたり天使を連れて行こうと思う。
これまた親父の知り合いのその国の養護施設に引き取られているそうなので。
彼らは幸せになってほしい。
「 」
俺は天使の名前を呼ぶ。
どんな名前でも俺には天使だ。
天使は嬉しそうに振り返る。
天使は自分の名前が好きだ。
自分の名前だから。
俺達は街を歩く。
俺達が出会った街だ。
季節は変わり冬から夏になっている。
あの時俺は、逃げる天使を追いかけこの街を走った。
追いかけて、そこから止まらなった。
この小心な俺が、走り続けた。
走る車のフロントガラスをぶち破り、銃を撃つ男達と戦い、車でマンションに突っ込んだ。
そのいく先に天使がいたから。
今でも俺にあんなことが出来たのは信じられない。
「君もお父さんの仕事手伝わないか」
親父の国の仕事を手伝わないかと誘われたけど断った。
あんなん一度でもう、ええ。
「映画行こか」
俺は天使に言う。
手を繋ぐ。
「うん」
天使が笑う。
手を握りしめる。
俺はこの人が守れたらええ。
この人のおる毎日だけでええ。
でも誰かがこの毎日を奪おうとしたなら。
俺はまた絶対に止まらないでそいつを追跡し、そいつの息の根を止めるやろう。
END
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