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第7章:切ない片想い⑨
そんなことを考えながらステージのある宴会場に戻ると、扉の前に青山がいるのが目に留まった。有坂の姿を見た瞬間に、左右に激しく手を振ってくる。
「さっきはごめんね、有坂くん」
慌てて駆け寄った有坂に向かって、深く頭を下げる。
「あ、その……、あの状況なら仕方ないというか。別に怒ってないよ」
「ほんとに?」
青山に下から覗き込む感じで見つめられるせいで、どんな態度をしていいか分からなくなる。
「うん、大丈夫。それよりも、結果はまだ出ていないんだよね?」
有坂は部署でおこなった寸劇から出し物の結果に話題をズラし、漂っている嫌な雰囲気の払拭を試みた。
「うん、まだ協議してるみたい。身の置き場がなくて大平課長のところに行ったら兵藤さんと飯島さんを叱っていて、近寄ることができなかったんだ」
「へえ。いつも穏やかな大平課長が怒ってる姿が、どうしても想像つかないな」
オーバーなリアクションかもしれないけれど、肩を竦めて困った顔を作りこんだら、青山がこくこくと首を縦に振る。
「分かる! 私も自分の目を疑ったもん。大平課長って、本当はとっても怖い人なんだなって、アレを見て分かっちゃった」
「大平課長に叱られないように、お互い気をつけないといけないね」
「ほんと、それ! 叱られたら間違いなく凹みまくって、仕事ができなくなっちゃいそう」
目を見合わせながら語り合っていると、傍にある扉が音を立てて開いた。
「あ……」
その隙間から、元気なさげな兵藤が顔を覗かせる。
「お前たち、そろそろ結果が出るから中で待機しとき」
言いたいことを告げるなり、すぐさま扉が閉められた。
(教育係の兵藤さんが気落ちしているのを、そのまま見過ごすわけにはいかない――)
「青山さん……」
「うん、分かるよ。兵藤さんを、私たちで元気づけないといけないね」
「すぐにあとを追わなきゃ!」
顔を見合わせて頷き合い、ふたりで兵藤の背中を追った。そして自分たちのふがいなさを口々に語り、落ち込んだ気持ちを浮上させるべく尽力したのだった。
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