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第7章:切ない片想い⑩

***  有坂の目の前にいる兵藤の背中が、悔しさでふるふる震えていた。無理もない――。 「どうして、アイツの部署が優勝するんや。全然面白くなかったはずなのに。もしかしてウチの部署の寸劇に飯島が乱入したのが、成績に加算されとるんやないだろうな。めちゃくちゃ腹が立つ!」  苛立った状態でステージ脇から宴会席に視線を飛ばす兵藤の視線の先には、満面の笑みで自分の部署の優勝を喜ぶ飯島の姿があった。  余興に出た社員全員がステージ脇に控えて、自分たちの部署が呼ばれるのを待っていた。すべての部署に、何らかの形で賞品が当たるらしい。 『あ~さて、今回の成績で優勝した部署と同等の成績を出した部署を、特別賞として授与したいと思います。会計課の皆さん、壇上にお上がりください』  優勝のあとですぐさま呼ばれたことに驚き、目を見開きながら固まってしまった。 「有坂、ほら青山さんも大平課長の後ろについて、賞品を受け取りに行き。俺は写真を撮るから」  兵藤は傍にいた大平課長を指差すなり身を翻して、壇上の階段を降りていく。何の気なしにその背中を見送っていたら、スーツの袖を引っ張られた。 「大平課長が歩き出したよ。兵藤さんの言うことを聞いて、ついて行かないと」 「あ、うん……」  青山の指摘で有坂は我に返り、兵藤の指示通りに動いた。大平課長の隣に並んで会長に視線を合わせてから、丁寧にお辞儀をする。 「会計課の皆さん、今回は突発的なハプニングがあったのにも関わらず、日頃の練習の成果を出すことができたことを賞し、軽井沢のホテルの宿泊券を贈呈します。おめでとう」  会長に告げられた『突発的なハプニング』という言葉で、寸劇の内容が一気に変わったことを思い出した。そのせいで顔を引きつらせながら、大きな縦長の箱を受け取る。  箱の表面には金箔の文字で日本酒の名前がプリントしてあったので、中身がすぐに分かった。  ちなみに大平課長の手には賞状が、青山は【特別賞】と書かれた立派なのし袋を受け取っていた。  それらを持ったまま宴会場に向きを変えて、そろって深くお辞儀をした。優勝した飯島の部署のときとは違い、数名からの拍手がパラパラという感じでなされる。  有坂はその様子を目の当たりにして、心の奥底に追いやった不安な気持ちが膨らんでいくのを自覚したのだった。

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