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第8章:気がかりな後輩2
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「なぁ有坂、一緒に社食行かへんか? 寸劇の礼も兼ねて奢ってやるで!」
兵藤が頼んだ仕事を手際よくこなしている様子を見ながら、昼食休憩3分前というタイミングで、有坂の背中に向かって威勢のいい声をかけてみた。
「え~、いいなぁ。私は途中で寸劇から逃げ出した身だから、奢ってもらえないですよね?」
有坂の隣で仕事をしていた青山が、振り返りながら上目遣いで兵藤を見つめる。しかし有坂はパソコンの画面を見たまま、微動だにしなかった。
「まさか! 奢るに決まっとるやろ。仕事が終わってからふたりそろって、毎日頑張って練習していたし、出だしの大事な絡みがなかったら、あの展開はなかったんやから」
「ホントですか!?」
「もちろん。可愛い新人のふたりを、ぜひとも労ってあげたいと思っとる」
「やった! だったら、社食で一番高いものを頼んじゃおうかな。ねぇ有坂くん」
会話に参加しろと言わんばかりに、青山が有坂の肩を叩いて、必死にアピールした。
「俺は別に、わざわざ奢ってもらう必要はないというか……」
「有坂くん、こういうのは断っちゃいけないんだよ。先輩が奢るって言ってるんだから、ありがとうございますって、素直に受けなきゃ」
「…………」
振り返るなり、じとっとした眼差しで兵藤を見つめる有坂の態度に、思いきりたじろいでしまった。
さっき廊下で見た悲しそうな表情から一変した、ナイフのように突き刺さりそうな鋭い視線に、兵藤の躰が一気に凍りついてしまう。固まったままでいる先輩に、有坂が口元だけで微笑みながら声をかけた。
「……兵藤さんも大変ですね。先輩としていいところを後輩に見せなきゃいけなかったり、奢りたくもない食事を奢ったり」
押し黙った兵藤に向かって、乾いた口調で本心を言う塩対応に、なんと返事をしていいのか困り果てた。
実際にそれは図星を指す内容だし、それを肯定しても否定しても後輩の機嫌を直すものではないことが明らかだった。
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