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第4章:無骨な先輩――②

***  その後、何食わぬ顔で兵藤と一緒に会計課に戻り、午前中の仕事の続きをした。  有坂としては格好の悪いさっきの出来事をなかったことにすべく、素知らぬ顔で仕事をしたかった。 「いやいや大変だったね、兵藤くん。エレベーターに閉じ込められるの、これで二度目じゃないか」 「はい、狙われているのかもしれませんね。二度あることは三度あると言いますし、気をつけます」  離れた席にいた大平課長がわざわざ兵藤のデスクに赴き、労うように肩を叩きながらニコニコする。その様子を複雑な心境を抱えつつ、目立たないようにしなきゃと、有坂は躰を小さくして俯いた。兵藤が余計なことを言いませんようにと、心の中でお祈りをしながら。 「有坂くんも兵藤くんに巻き込まれて、初日から大変な目に遭ったね。大丈夫かい?」  大平課長がいきなり自分に会話を投げかけてきたので、慌てて顔をあげる。 「は、はいっ! その……大丈夫です。お気遣いありがとうございます」  閉所恐怖症以上に怖い思いをした。他にも目尻を思う存分に下げられて、とても痛い体験をした。本当は全然大丈夫じゃないけれど、兵藤との接触をなるべく避けるために、あえて口をつぐむ。 「今回は有坂と一緒にいたから、すごく心強かったです」  だんまりをしっかり決め込んで、有坂が兵藤を意識的に避けているのにもかかわらず、さっきの出来事を話題にされたせいで、内心頭を抱えるしかなかった。 「地震でエレベーターが揺れなかったかい? ビル全体が、ゆらゆら揺れていたからね」 「揺れましたよ、そりゃあもう! 俺がチビりそうになっていたら、有坂が傍に来て大丈夫ですよって励ましてくれたお蔭で、めっちゃ落ち着くことができたんです」  相変わらず変なアクセントの標準語を交えて、熱心に語った兵藤のせいで、部署にいる人間の視線が有坂に自然と集まった。 「有坂くんは見た目は優男だけど、心は勇敢で頼りになる男なんだね」 「いえ……。そんなことないです」 (皆さんお願いですから、騙されないでください。そこにいる、二枚舌を使いまくる関西人に!) 「あのぅすみません、ちょっとトイレに行ってきます……」  自分に集まる視線を何とかしたかったのと、いきなり話題にして持ち上げたくせに、意味不明なガンを飛ばしてくる兵藤からの視線をやり過ごすべく、一時退散しようと考えた。  すごすごと会計課を出る瞬間にちらっと後方を見たら、憮然とした表情の兵藤が未だに有坂を睨んでいた。睨みを利かせていても、ムカつくくらいにカッコイイことこの上ない。  そんな姿を見るべく、自分が女子社員だったら喜んで睨まれているかもしれない。だが何かした覚えはないのに、どうして睨まれなきゃならないのかを考えるのもバカらしいので、つんと顔を背けて、さっさと部署から出て行った。 (――本当、ワケの分からない先輩に絡まれてマジで最悪だ!)

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