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第8章:気がかりな後輩4
「兵藤さんが一生懸命に話しかけてくれていたのに、態度が悪くてすみませんでした。以後気をつけます」
有坂は仏頂面のまま頭を下げて、素早く大平課長のほうを見る。絶対に兵藤と目を合わせないという、徹底的に意固地な姿勢を貫く姿に、思わず吹き出しそうになった。
(ここまではっきりと嫌悪感を示されたら、逆に清々するな)
「有坂くん、青山さんと一緒に、兵藤くんに奢ってもらいなさい。遠慮はなしだよ」
ある意味反省の色が見えない有坂の態度を見て、苦笑いを浮かべた大平課長は念を押すように言いたいことを告げて、3人の前から消えた。
颯爽と去って行く大きな後ろ姿を名残惜しそうに見つめる有坂に、兵藤は思いきって話しかけた。
「ということだから、今日の昼飯は俺の奢りな。遠慮なく好きなものを頼むこと!」
「兵藤さんのお蔭で、午後からの仕事が捗っちゃうな。ねっ有坂くん」
「……そうだね。ありがとうございます、兵藤さん」
無表情のまま自分の席に戻り、やりかけの仕事に手をつけはじめたのを見て、青山も自分の席に戻った瞬間に、正午の合図を知らせる音が社内に響く。
「ふたりとも、デスク周りをちゃっちゃと片付けろよ。早くしないと置いてくで!」
腰に手を当てながら命令した兵藤に、青山は慌てふためきながら言われたことをし、素早く目の前に現れたのに対し、有坂はどこかダルそうな感じで手元を片づけ、顔を俯かせて現れる。
態度が相反するふたりを前に、兵藤は小さな咳払いをして背中を向けつつ、流暢に話しかけた。
「さっきも言ったけど、好きなものを頼むように。わかったな?」
「はーい! 私は社食で一番高いものを頼みますっ」
背後から聞こえた青山の言葉に振り返ると、有坂はそっぽを向いて、ぶつぶつ何かをつぶやいているようだった。それを聞こうと兵藤は歩みを緩めて、わざわざ隣に並ぶ。
「……何度も同じことを言われなくても、そんなことくらいわかってるのに。本当にしつこいな」
「しつこいのはお互い様や。それとも嬉しすぎて素直になれへん、ツンデレなのか?」
軽く有坂の肩にぶつかってみたら、ぎろりと睨んでから体当たりしてきた。
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