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第8章:気がかりな後輩6

***  寸劇の礼で、青山は社食で一番高いメニューを、有坂はハンバーグ定食を奢った兵藤。美味しそうにパクつくふたりを見やりながら、焼き鮭定食に舌鼓を打っていた。 (青山さんは宣言どおり高いメニューを選んだのはわかったが、有坂は大好きなハンバーグを選んだあたり、かわいいというかなんというか……)  そんなことを兵藤が考えていると、有坂がボソッと呟く。 「結構おいしい……」  有坂がハンバーグを咀嚼しながら呟いたことが、兵藤としては結構嬉しかった。右手で使っている箸を握りしめて、喜びを必死に隠すくらいに。 「有坂くんが選んだハンバーグ定食、貼ってあったメニュー表よりもボリュームがあるんだね」 「うん。口をつけてないこの部分、食べてみなよ。中からチーズが沢山出てくるよ。肉汁と絡まって、すっごく美味しいから!」  兵藤の前でなされる恋人のようなやり取りを、とても羨ましく思った。 (有坂が俺と喋るときは、自然とけんか腰みたいになるし、俺も売り言葉に買い言葉となって、いつものように話せんくなる。ここに来る前も同様やったな)  さっきの出来事を考える兵藤の食器に、目の前からなにかが置かれる。 「えっ?」  置かれたものは、一口大のハンバーグだった。それはソースとチーズがいい感じ絡まったとても美味しそうなもので、突然のことに驚きながら兵藤が顔をあげて有坂を見た。  思いっきり俯きながら口をもごもご動かしている有坂の様子は、見るからに話しかけづらい雰囲気を醸していて、兵藤はうっと言葉を飲み込む。 「わっ、兵藤さんよかったですね!」 「ぉ、おう。有坂サンキューな」  青山さんのおかげで、兵藤の口から有坂にお礼を言うことが自然にできた。 「こちらこそ奢っていただいたので、感謝してます」 「そうか……」  有坂からは感謝している態度がまったく見えなかったものの、美味しそうにハンバーグに食いついているのを見られただけで、兵藤は満足してしまった。ゆえに午後からの仕事がめっちゃ捗ったのは、いうまでもない。

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