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04 証拠隠滅

 コン!  音に弾かれてそちらに目を向けると、机をノックしたらしい指先が横にあった。長くて細い指だった。スローモーションのようにゆっくりと手を上げ腕を組む簑島がそこに立っていた。ドキリとした。陶器のように白い顔、メガネの向こうの薄茶の瞳、サラサラの髪、どこに目を動かしても綺麗なものしか入ってこない。重たくなっていた瞼も一気に見開くほど、その容姿に目を奪われた。自分より背は高いだろうか、スレンダーだが立ち姿は鍛えていることを感じさせるほど芯が通っていて美しい。 「警視庁の簑島だ。銃器取引の証拠が出たというから取りに伺った」  茫然としている自分に、作り物ではないぞとでもいうように、唇が動き声が発生された。あとで思えばこの時の唇は血色が悪く、悪魔的な気がしたのだ。よくみると襟元に隠しきれない吉川線も見えた。ただただ美しい人の突然の出現にドキドキしていた。 「ご苦労様です!」  立ち上がって敬礼をする。簑島は頷いて返す。その仕草にさえ心臓が跳ねる。 「それは証拠品ナンバーの…あ、まだここにある」  書きつけていた書類を捲り番号を確かめる。足元に置いた箱に手を伸ばそうとして、簑島の顔が一瞬曇ったことに動きを止めた。PCの画面を見て固まっている。なんだ? 「…!」  PC画面を振り向いて息を飲んだ。簑島の顔がそこにあった。殴られたのか口の端から血が滲んでいる。顔が離れたと思ったら首筋に紐状のものが巻きつけられ、後ろから引っ張られたのだと分かった。シャツの前がはだけている。背後から男の手が伸び、胸元に宛がわれ乳首を摘まんだ。画面が揺れ簑島の苦痛に歪む顔が映された。画面を睨み目を閉じると、口元を引き締めて顔をそむけた。  瞬きもできないほど画面に引き込まれてしまった。乳首を揉まれ揺れる身体に心臓が高鳴った。おかしい。女を多く見すぎておかしくなっているのか? 弄ばれた乳首が赤く白い肌に映えた。先ほどまで見てきたものは男の欲求を早急に満たすために、女は雑に扱われていたが、この後ろにいる男は違うようだ。見せつけるように手の中の男の肌をなぞり、その身体の美しさをこちらに訴えかける。過不足ない均整のとれたラインを撫で、目線を誘う。臍の形まで美しい。片手が胸まで戻り、尖った乳首を責める。白い首筋にしゃぶりつきたい気分になった。男が耳朶に歯を立てると、簑島の身体が震えた。手は自由にされているが、クスリでも盛られているのか、抵抗する様子はない。  この男はこれまでの動画には一度も出てこなかった、別の人物だ。顔をはっきりととらえることはできないが、そう感じた。女に乱暴していた男は数人いたが、どの男とも骨格が違う、やり方も違う。  肌を舐めるように行き来していた手が股間を包むように… 「…っ!」  不意に画面を手が伸びてきて我に返った。横から簑島が手を出したのだ。見入っていたことに気付いた。本人の前で、見入ってしまうなんてなんてことだ。震える手でマウスを動かしてどうにか×ボタンを押し動画を閉じた。マウスを跳ね飛ばして、スロットボタンを押し、出てくる途中からディスクを掴もうとしてトレイが曲がってしまった。ディスクも慌てて掴んだために、白い面が撓んだ。  ドキドキしていた。隣に立つ人の顔を見ることができず、右手のディスクが折れてないか確認するように揺らしてみたが破損はない。  簑島がゆっくりと開いた手を出してきた。渡していいのか? し、証拠品だ。内容確認の前に数を数えられている。失くしたとなったら責められるのは自分だ、ジワリと脇の下に汗が噴き出す。破損? 破損! ディスクを握りなおして机の角にこすりつけ傷をつけた。ガリガリと音がし傷ついているのが分かった。さらに両手で押し付けて割ろうとしたが、軽く折れ曲がっただけだった。 「そこ! 何やってる」  取り調べ室のような小部屋の一番後ろの席にいた自分に、監視役の上司が声を張り上げた。椅子から跳ね上がって立ち上がると、前を向いていた眠そうないくつもの顔が同時にこちらを振り返った。 「す、すみません! トレーに引っかかってしまったので、取り出そうとしたら折れてしまって…」 「ばかか? 何やってんだ」  上司がやってきて折れ曲がったディスクを確認する。裏面も思った以上に溝ができていて、これならどんな優秀な人でもデータを取り出すことはできないはずだ。上司も諦めモードだ。 「中はちゃんと見たのか?」 「は、はい。中年の女性が被害者でした。男の方はモザイクがかかっているので確認はできませんでした」  上司の目がちらりと簑島を見る。顔を見ることができないが簑島は横で腕を組んだ。 「その内容で間違いないです」

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