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06 猫の手出動

   *  二人の秘密だ。サーバが消失した以上、あの保存用とされるDVD以外この世にその証拠は存在しないと考えていいはずだ。自分はヒーローだ。何故そこに簑島がいたのか、何故その行為に及んだのか、その裏に何があったか。それを知る者はいない。彼の意思を汲み取って証拠隠滅した自分に、きっと期待を寄せているはずだ。秘密を共有した者は惹かれ合うに違いない。こんな所轄でくすぶっている場合ではない。早く彼のそばへ。  彼を守るのは自分の役目だ。  五課の主任に直談判をしてみた。目の下のくまが何日も寝ていないことを訴えている。 「そりゃ、猫の手も借りたいところだが」  ゴマ塩頭を掻きながら、四課の主任のデスクへ近づき交渉を始めた。自分の上司がこちらを見ると小馬鹿にしたように笑い手を振った。ダメなのかと思った。まあそれはそうだろう。唯一のデスクワークを処理できる有能な自分を、簡単に手放すことはできないだ…。 「いいってさ。さっそくだが都内の道は詳しいか?」 「…は? あの…」  払い下げられたようで、軽くショックを受けたが、こっちが大変だということを理解のうえでの英断なのだろう。切り替えて考える。都内の道? そんなのナビがあるんだから…。 「ああ、いいや。なにかあったらまずい。そうだ、簑島」  急に肝心の人物名が出てきてドキリとした。やはり俺は運も強い。 「まだ服部の居所は掴んでなかったな」  五課の人間は先ほどの打ち合わせのあと三々五々散っていった。誰もいないと思っていたがホワイトボードを眺めていた簑島が振り返った。ま、また目があった。 「どうでしょう。今回の件に服部が絡む要素が見えないので、無関係の可能性もあります」 「うーむ」  主任も簑島の横にたって、ホワイトボードを眺める。協力を承認されたからには自分もこれを把握する必要がある。ホワイトボードを改めて眺める。話題の“服部”とやらを探すと、みたことのある老人だった。貼られた写真の下に名前と「82、元衆議院議員現在隠居中」と書かれていた。地図があり赤マークから引かれた写真には、芸能事務所社長と所属タレントの3名、個室飲食店と店主、海外アンティーク家具屋とその社長、渡航経歴と場所が細かく記されていた。ここ最近頻繁に台湾とベトナムへ出向いている。空港で映されたらしい写真には、毎回となりに違う女がいて、派手な生活が見え隠れする。マークされている芸能事務所のタレントが含まれている。一人はちょっと前TVをつければうんざりするほど出ていたアイドルだ。ほかも漫画雑誌や週刊誌で水着姿を見たような覚えはある。  無精髭の顎を撫でながら主任がもう一度唸った。 「関係ないならないで潰しておきたいな」 「それもそうですね」  簑島が頷いて人差し指でメガネを押し上げた。 「そいつを使っていい。少し調べてみてくれ」  主任に指さされ気を付けをすると、簑島が振り返った。あの日より動揺を隠し、丁寧に敬礼する。 「今期より四課に配属されました権藤です。よろしくお願いいたします」 「ああ、では概要を説明するので、こちらへ」  そう言って先を行く。顔色一つ変えないところはさすがだと感心する。犬のようにしっぽを振りながらついていきたい気分だが、簑島を見習ってクールに決めてみる。シマの端っこに小さなノートパソコンが置かれている席へと進む。これが簑島の席だろうか、他は資料が山積みなのに、やけにすっきりとしている。隣の席の椅子を指さされ、椅子を引いてくると簑島はPCにログインして、ホワイトボードの情報画面を表示した。

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