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07 事件概要
「先日、横浜港から都内に向かうトラックが飲酒運転で事故を起こした。輸入家具を扱う会社のものだった。道路に散らばった家具を拾い集めていたら、家具の中から、銃や弾丸が見つかった」
事故の写真はトラックの損傷具合、運転手と血中アルコール濃度の検査結果、破損品と次々と送られていった。アンティーク家具や、アジアンテイストの家具が多い。破損したものに交じって、番号札の貼られた箪笥から拳銃らしき包みと、ソファーの面を裂いた部分からひしゃげだ箱、拡大されたものには22口径弾、ほかにもいくつかの写真が高速でスライドされた。説明する手間を早めるというよりは、こちらがその速度で読み取れると理解してのことと思うと、胸を張りたくなる。
「家具屋は『ガオガー』という店だ。2015年創業当時は台湾由来の家具を扱っていたらしいが、急速に経営が伸びて今や都内に大小5店舗も展開している。アジア系の家具は若い女性に人気だそうだが、都内展開にも関わらずローカル局でタレントを使ったCM もやっているそうだ。私はよく知らないのだが、この辺のタレントを知っているか?」
ホワイトボードにもあった写真が並ぶ。雑談の一種だろうかと思うと、緊張感が少しほぐれた。
「詳しくはないですが、真ん中の子はデビュー当時は国民的アイドルと言われ、売れた映画やドラマにやたら出ていたが、そういえば最近姿をみなくなったな」
呟くように伝える。
「なるほど」
「落ち目になった子で話題性を利用したというところでしょうか」
簑島が次の写真を開く。
「これがガオガーの社長。柳葉将司、42歳」
日サロで全身焼いたような男がスーツをきてポーズをとっている。嫌味のようなごつい指輪と、家が買えそうな腕時計がちらついた。次の写真はアロハで女の肩に手を乗せて歩く写真だ。背景は空港という以外、女はどれも違う。落ち目のタレントも含まれていた。
「CM起用を餌に女をとっかえひっかえしてるのでしょうか?」
「いや、CMは2本しかないらしいから、何股もかけているんだろう。そこは特にこちらが問題とするところではない」
ヨレたコピーを渡された。柳葉の渡航記録だ。
「目的は家具の買い付けとなっているが、早いときは帰ってから3日と立たずに渡航している。滞在期間も3~4日」
台湾、台湾、フィリピン、タイ、香港、台湾…。帰ってくる必要もないのではと思うところだが、女を入れ替えるためとも考えられる。女を変える理由はなにか?
考えるクセで右手に左肘をつき、口元に手をやると簑島が振り返った。口角を少し上げて微笑んでいるようにも見えるが、挑戦的にも見える。
「なにが目的か?」
そう聞かれて間髪入れずに答えた。
「女を毎回変えるということは、それが名刺代わりなのか、あるいは商品なのかというところですかね」
「ふ。そっちか。それも一理あるな」
笑われた? 血が上りかけたが「一理ある」というのは納得したということだろう。
「五課ではどういう筋読みですか?」
「女との旅行を名目とした偽取引という見立てが多い。実際、輸入家具は現地で買い付けているにしては、欧米産の安物だったり、ディスカウント商品も含まれているんでね。これは店舗を視察してわかったことだ」
「ではマネーロンダリング?」
「その可能性もある。君は回転が速いね」
簑島が人差し指でメガネを押し上げながらそう言った。面と向かって褒められては悪い気はしない。
「質の悪い家具やあるいはそこらの北欧家具店でも入荷できそうな家具しか取り扱ってないのに、都内に5店舗。これは?」
家具屋の所在が記された地図が表示される。
「インターと倉庫に近い場所ということですかね?」
「そう、客入りを期待して考えた店ではない。そこで最初の話に戻る」
押収された銃器と弾丸が並べられた写真が出された。警察官が持たされる拳銃よりはかなりごつい。銃の種類まではまだ詳しくはないのだが、暴力団ともなるとこんなに殺傷能力のありそうなものを取り扱うのが普通なのだろうか。
「柳葉を取り調べたところ、『知らない、嵌められた』の一点張りで怒り狂っていたそうだ。感触としてはどうやら本当らしいとのことで、本人は銃器の取り扱い事態には関わっていなかったとみている」
なるほど、柳葉という男は何らかの悪事を働いてはいたが、それを利用して誰かが銃器の輸入を行った。手配ができるとしたら、社内のものとなるだろう。
「そこを、分担して調べているところだ」
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