14 / 36

14 スリップ

 心臓が耳のあたりよりさらに上に移動したのか、ドクドクという音とともに頭痛が始まった。  何かいろいろヤバいことになった。ゾンビだから問題ないというのではなく、人だとしても、轢いたわけではない、ドアミラーに当たってきたのはあっちだ、質の悪いあたりやだったということにできる、そうだ、できるさ、簑島が仮にみていたとしても、あ、そうだ、こ、これは簑島の指示でやったのだから、もし訴えられたとしても簑島がかばってくれるに違いない、またはなんのことだかとあの日のように口裏を合わせくれるに違いない、そうだそうだ、もう簑島はあの日から、秘密を共有する自分に運命共同体であることの自負があるんだろう、だからこそ今日も……。 「おい! とまれ」  声がして我に返ると下り坂の先にガードレールが見えた。もうスピードでつっこんでいることに驚いて、急ブレーキとともに、ハンドルを切ってしまった。  キキキキーッ!  タイヤが悲鳴を上げ、視界が回った。身体がハンドルにぶつかり、額をフロントガラスにぶつけ、首がゴキっとなった。簑島の身体も揺れ、左にバウンドして勢いでフロントにぶつかりそうになったが、腕で守ってシートに叩きつけられた。こんな時も無様な恰好を見せることなく、身を護る姿も美しい。死ぬのか、と思うほど視界はゆっくりと簑島を刻んでいた。

ともだちにシェアしよう!