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17 明日はない
「権藤」
後ろで声がして身体がひきつった。音もなく簑島がついてきていた。
「今日はもう帰ろう」
今日はもう?
明日があるのだろうか?
まだ腕を組んでいる簑島が気になった。道に迷って連れまわされた挙句、重要参考人とニアミスをし、スリップして怪我まで負わせた新米刑事と明日もその先もコンビを組みたいと思うわけがない。
このままでは明日がない。
聞こえないふりをして、店先の錆びれたポストに手を突っ込んだ。
「権藤」後ろで声がしたが、ポストのごみを一枚ずつ広げる。近所といってもほかに建物がないのに、ポスティングされたと思われる地域のチラシ、保険のチラシが雨にでも濡れたのかしわしわになって入っているだけだった。
天を仰ぐ。ガラス戸の上に、看板を外した跡のように色が違う壁が見えた。形、大きさからして、椅子やテーブルの山に立てかけられた木の板のようなものが気になった。くるりと裏返してみると商店街の壁やガード下の落書きのように、おしゃれなのか創作なのかわからない装飾のある英字のようなものが、ペンキで書かれていた。経年劣化でだいぶ色落ちしていて認知できない……。
「……g…? 最後はrか?」
「……ガオガー?」
簑島の声がして、そちらを見ると看板を見つめていた。
「じゃあ、ここってやっぱり……」
ガラガラガラと建物の奥で音がした。簑島に引っ張られ思わず身を屈める。シャッターの音だろうか。隣の倉庫のような建物の裏口だろうか。二階建てほどの高さの建物の壁は波打ったトタンでできており、鉄骨とともに、サビがひどく、ところどころ風穴が空いている。
わずかな光が一つの穴を通して漏れ、隣の穴へと移る。中で人が周囲を確認している様子が分かった。光が2周して暗くなった。しばらくするとボソボソと人の話し声が聞こえてきた。
簑島の手を払って、比較的大きな穴に近づき、中を覗いた。倉庫の手前のほうには商品棚となにか箱らしきものが積まれている。奥には大き目の箪笥と、ソファーが置かれているが、さらに奥の方はがら空きになっており、そこに男が二人いた。机の上にライトを置き、箱をのぞき込んで話していた。
まさか、銃取引の現場ではなかろうか。これは絶好のチャンスだ。
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