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23 裏取引

 通行止め男のスマホが鳴ってまた出て行った。  先ほど殴られた若い方はすっかり小さくなってしまって、暗闇で丸まっている。品川がまた近寄ってきて銃口で顎を押し上げてきた。 「はったりだろ? ここにブツがあるとか、拠点があるとかわかってたらもっと大人数でこそこそ固めるだろ」  銃を取り上げてからずっと、この男をはこれを離さない。本物を撃ちたくてしょうがないのかもしれない。 「そうですね。偵察で帰るつもりがしくじりました」  品川が椅子を引き寄せて、先ほどのように背もたれを前にして椅子を跨ぐと囁いてきた。 「その余裕がムカつくんだよ。相棒がちゃんと逃げれたとでも思ってるのか?」  交渉が難しそうな相手のようだ。 驚いた顔をして見せる。 「あのタイミングで径がきたんだから、やられたに決まってるだろ」  息をのんで目を瞑る。「ケイ」とは先ほどの若者のことだろうか? 確かにタイミング的に権藤と鉢合わせている可能性の方が高い。車までたどり着ければ、ひき逃げしてでも振り切るだろうが、車にたどり着けなかった場合、無事ではないだろう。  ピタリと冷たいものが頬に触れて目を開く、銃身が触れた。品川が覗き込みながら、小さな声でいった。 「可哀そうにな。金井のアニキは相当のSだぞ」  演技ではなく自然と顔が歪む。ところで金井という名前はピックアップされていただろうか? カマかけてみる? 「金井ってチタンの?」  こくりと頷く。先ほど、名前出すなと言ってた本人がやたら情報提供してくれる。もう、地獄行き決定だから冥土の土産ということだろうか。 「チタンに女タレントしかいない理由って知ってる? 男性アイドルは全部、金井に食われちゃって商品価値がなくなったからだよ」  鼻にしわを寄せて心底嫌いだとでもいうように、品川が唾を吐いた。  油返し。お寺から油を盗んだものが反省して油を返しにいく。罪を犯しても反省できることはいいことだと思っていた。 『お寺に油を返しに? その前に使い切っちゃいそうですね』  言われるまで考えもしなかったが、確かにそうだ。返そうと思いながらさらに使ってしまっている。悪気はない、それくらいがいい。品川も成り行きでここで悪事に手を貸しているが、心底悪い奴ではないようだ。 「金井が来る前にいっそ、殺してくれないか?」  品川の構える銃口に顎を乗せて囁いてみると、品川はじっとこちらを睨みながらセイフティを解除した。カチリという音に、暗闇に丸まっていた若者がビクつき、耳を塞いだ。だが、品川はそのまま撃つことはなく顔を近づけてきた。 「俺にメリットはない」  確認するように、こちらの目を見つめている。正面から受け止めて、自らも顔を寄せる。 「私を餌に警察に押収された銃を取り返すという金井の案、うまくいくと思うか?」  品川は目を動かさずにこちらを見ている。 「どんな名案で取引が成功したとしても、その手に持っているものほど精巧なものでもないし、国内でも売りさばけないことは、賢いアンタならわかっているだろう?」  ギロリと目が左右の瞳を比べるように動いた。 「潮時だ。どざくさに紛れて逃げたほうがいい」  品川が銃口を胸元に突き付けてきた。 「……死ぬより、嫌なのか?」  そう聞かれて二人の顔が浮かんだ。目を閉じて頷く。    パン!  乾いた音が響いた。暗闇から若者が絶叫する。  身体を弾く熱に身を捩じり、胃がひっくり返るほどの苦しみに息を詰まらせた。  額や頬を、さらにグリップエンドで殴りつけられ、血が飛び、あちこちが熱を持つ。  天井の入口からケイと呼ばれた男が駆け下りてきて、喚きながら殴りつけている品川に襲い掛かった。

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