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25 混沌

 筒美会の者と接触して、2日帰れなかった。火事のどさくさに逃げのびたが、この無様な様子をみて、主任は息抜き程度に徳重を洗うように命じた。  片桐にされたことを、それほど辛くは感じていなかった。初めての男、それだけのことだった。身体の傷などいつか癒える。傷もなくなれば思い返すこともない。  権藤が見つけたVを見るまでそう思っていた。手を伸ばしていた。あれを受け取ってどうするつもりだっただろう。権藤は悠然と証拠隠滅した。自分はどうするつもりだっただろう。一瞬見えた、片桐の顔を、もう一度みたいと思っただけだ。  徳重は顔かたちも身長も仕草も笑い方も、どれも違うが、どことなく片桐を思わせた。ひどくバカだったけど……。  シャツや卵やラーメンを盗んでも、適当に過ごせる呑気さに腹がたったりもした。  家の中に知らずに他人が住み着いているのに、物がなくなるのはニワトリのいたずらだとでも思っているようだった。庭の畑から目を出した葉っぱに嬉しそうに語りかけたりして、こちらの存在には気づかない。腹いせにトマトの苗を倒してやった。  強姦したくせに、「どうやったら結ばれるんだ?」と最後まで呑気なことを言っていた。  ちょっと前までフロント企業の金庫番をしていたくせに、金もテレビもスマホのない、与えられた住居に満足して、庭でニワトリを飼い、農業を満喫していた。早朝に洗濯してごはんを食べて、夕方帰ってくる男が徐々に日に焼けて、庭にも畑をつくり、一般人として生活に馴染んでいくことが、羨ましくもあった。  どうして自分は警察官になどなったのだろう。  身体がとても冷たくて、あの熱の籠った男の肌を思い出しているだけだ。  新芽がひだまりを欲しがるように。

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