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27 約束

 だが、徳重はちらっとみただけで、軽く手を振る。 「ん? 手錠は外せないな。仕返しがまだ残ってるし、俺にはまだ任務がある」 「任務?」  徳重は口を結ぶとこちらをマジマジと見つめてくる。 「あとちょっとここで待ってろ」 「……いやだ」  任務という言葉で目的と誰の指令かもピンときた。尚更行かせるわけにはいかない。 「いい子にしてろよ」  子供を諭すように片手を頭にのせ、ポンポンと叩かれた。 「悪い子のほうが好きなくせに」  表情を変えないようにキッと睨むと、手を頭に置いたまま、徳重が困ったような顔をする。助けてほしいと願ったから、助けにやってきたヒーローではない。わかっている。行くなといっても聞いてはもらえないのだろう。  徳重も睨むようにこちらを見たまま、顔を寄せてきた。鼻がぶつかる。柔らかい唇の感触を思い返して胸が疼いた。血も吐いたし、砂埃も吸った。 「……不味い、ぞ?」  声が震えた。 「構わねぇ」  舌が挿入された。貪るように吸い上げられ、頭を押さえていた手が顎を捉える。角度を変え、徳重の舌に根本まで責められ絡め取られる。咥内で唾液が絡み喉を伝った。徳重が荒く息を吸い、また角度を変えて舌を這わせてくる。徳重の息遣いに、抱き寄せられた胸が騒ぐ。呼吸ほどの僅かな動きだけで、シャツの下で刺激を感じている乳首が反応するのがわかる。Tシャツ一枚の彼にも伝わるだろうか。 「ぅ……ん……」  身を捩って離れようとするが、徳重が肩を包んで離れることを許さなかった。零れそうになる唾液を舐めた舌先が、傷を癒すように口の端で動く。自らの舌を差し出して誘導し、また長く深く舌を絡めた。頬や首筋を行き来する片手が迷っているように思えたが、すっと額に押し付けられ、糸を引いて唇が離された。 「悪いが、最初に契約した方を俺は守る」  悲しくなった。 「行け。……誘惑したみたいに言うな」 「誘惑された。後悔するほど、あとでたっぷり可愛がってやる」  戦う顔で男は立ち上がった。

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